怒らない指導者が教えてくれたこと
大山 バレーボールの場合、数チームが同じアリーナに集まって練習試合をしたりするんですが、もうあちこちで怒声が響きわたっていました。どれだけ厳しくしているか、マウントを取り合うような感じがあったんです。
村中 激しく叱っているほど指導力があるかのような価値観が、バレーボール界全体にあったということですか?
大山 はい。しかも、怒鳴るだけでなく、監督がコートのなかに入ってきて選手を叩いたり蹴ったりするようなことが、けっこう行われていました。そんななか、小川先生は選手をまったく怒らないで、静かに見守っているんです。
村中 見守っているだけ。具体的にはどんなふうに指導をされていたんですか?
大山 「こうしろ」という命令的な指示をせず、「どうしたらいいと思うか?」と問いかけて、私たちに考えさせるんです。自分で判断する力を養わせようとしてくれていたのだと思います。
また、規則で選手を縛りつけず、いろいろ自由にさせてくれました。長時間練習もしないし、週に1、2日は練習が休みの日もありました。そのため周りからは、「あんな甘いことをしているチームが勝てるわけない」とよく言われていました。
だけど、どうすれば勝てるかを自分たちで主体性をもって考える、高みを目指すためには何をすればいいかを考えるって、高校生にはすごく大変でした。当時は、「先生怒ってよ、怒って『こうしろ!』と言ってくれたほうがラクだよ」と思うこともありましたね。
村中 小川先生は、最初からずっと怒らない指導をしていらしたんですか?
大山 いえ、若いころはやっぱりガンガン叱咤してスパルタ式の指導をしていたらしいです。しかし、退部者が後を絶たなかったり、部員たちが引退する日を心待ちにしている姿を目にしたりして、指導法に疑問をもつようになったそうです。
他の強豪校と同じことをしていてはダメだと思うようになって、発想を切り替えることにしたと聞きました。
あと、小中学生時代から全国大会を経験している選手が入ってくるようになったことが大きい、という話も聞きました。私と同じ学年に荒木絵里香がいて、二つ下には木村沙織がいたんです。
村中 えっ、大山さん、荒木さん、さらに木村さんがいたんですか! すごいチームですね。