イスラエル・ガザ戦争を後押しする「ホワイト・フェミニズム」…ハマスの非道さを理由に、パレスチナ市民への不当な攻撃が正当化されていいのか?
アメリカの、著名で地位や権力ある女性たちが「テロリストであるハマスを壊滅させるためならば、罪のないパレスチナ人が犠牲になっても構わない」という姿勢で戦争を支持している。
『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』より一部を抜粋・再構成し、イスラエルの軍事行動を肯定してしまうホワイト・フェミニズムを解説する。
自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード #2
あなた方には自由が来るのです
内藤正典 レイプや女性の人権というのは、アフガニスタン侵攻の時にも非常に大きな役割を果たしてしまった論点ですよね。
アフガニスタンに米軍が初めて踏み込んだのは、2001年10月7日。あの時は、まずアメリカが9・11のような未曾有のテロ攻撃を受けた、それに対して、少なくともNATO条約第5条の適用による集団的自衛権の行使による報復ということでNATOが出撃したわけです。これはNATOで初めてのケースでした。
しかも出撃する先は、アルカイダを対象としては非国家主体になってしまうので、アルカイダをかくまっているアフガニスタンのタリバン政権ということになりました。その時点で、もう国際法上はかなり無理があることは指摘されていましたね。
まず、国家対国家の戦争ではないのに、集団的自衛権を行使できるのかと。少なくともアルカイダだというなら、アルカイダを殲滅するのはかまわないけれど、アルカイダをかくまっているという理由で、アフガニスタンという国家を壊滅させていいのかとなると、その根拠ははなはだ薄弱だった。
しかし、実際に踏み込んで、1カ月ほどでタリバンは追い出された。といっても潜伏しただけだったんですけど、その間にアメリカは、理屈を変えましたよね。
ローラ・ブッシュが出てきて、「さあ、アフガニスタンの女性の皆さん、あなたは今日からあのブルカ(アフガニスタンの女性の被り物)を着用しなくて済むのです。あなた方には自由が来るのです」と言って。
しかしそれからの20年、膨大な犠牲が強いられていった。結局、アメリカ軍をはじめとする駐留軍とタリバンの戦闘で多くの女性が命を落とすことになったのです。これは授業でもよく話すのですが、女性の人権と命が引き換えにされてしまう。この理屈は、アメリカがアフガニスタン侵攻の時に使っているんですよね。
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三牧 「自衛」が通らなくなると「女性の人権」を持ち出してくる。欧米的な価値観ですね。
しかし、あえてその論理に乗ったとしても、アフガニスタンでも、都市部の女性について、政治的な権利や教育において進んだ面があったことは事実ですが、7割の地方に住んでいる女性たちにとっては、自分の命がねらわれたり、親族を亡くしたりした。
アフガニスタンのような社会で女性が一人で生きていくというのは本当に大変なことで、大変な辛酸をなめることになったのですよね。
写真/Shutterstock
自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード
内藤 正典 三牧 聖子
2024年4月17日発売
1,100円(税込)
新書判/288ページ
ISBN: 978-4-08-721311-9
中東、欧州移民社会研究の第一人者と新進気鋭のアメリカ政治学者が警告!
ガザのジェノサイドを黙殺するリベラルの欺瞞が世界のモラルを破壊する。
もう、殺すな!
◆内容◆
2023年10月7日、パレスチナ・ガザのイスラム主義勢力ハマスが、占領を強いるイスラエルに対して大規模な攻撃を行った。
イスラエルは直ちに反撃を開始。
しかし、その「自衛」の攻撃は一般市民を巻き込むジェノサイド(大量虐殺)となり、女性、子供を問わない数万の犠牲を生み出している。
「自由・平等・博愛」そして人権を謳(うた)いながら、イスラエルへの支援をやめず、民族浄化を黙認し、イスラエル批判を封じる欧米のダブルスタンダードを、中東、欧州移民社会の研究者とアメリカ政治、外交の専門家が告発。
世界秩序の行方とあるべき日本の立ち位置について議論する。
◆目次◆
序 章 イスラエル・ハマス戦争という世界の亀裂 内藤正典
第1章 対談 欧米のダブルスタンダードを考える
第2章 対談 世界秩序の行方
終 章 リベラルが崩壊する時代のモラル・コンパスを求めて 三牧聖子
◆主な内容◆
・パレスチナ問題での暴力の応酬と「テロ」
・ガザから世界に暴力の連鎖を広げてはならない
・ダブルスタンダードがリスクを拡大する
・戦争を後押しするホワイト・フェミニズム
・反ジェノサイドが「反ユダヤ」にされる欧米の現状
・アメリカとイスラエルの共犯関係
・ドイツは反ユダヤ主義を克服できたか
・「パレスチナに自由を」と言ったグレタさんに起きたこと
・反ユダヤ主義の変奏としての反イスラム主義
・民主主義のための殺戮の歴史を直視できない欧米の問題
・バイデンとシオニズム
・トランプとバイデン
・欧米がなぜか不問に付すイスラエルの核問題
・誰がイスラエルの戦争犯罪を止められるのか?
・「人殺しをしない」を民主主義の指標に