弔いに関する観念と「死」の国際化
さて本書を通読してみると、死や弔いに関する観念が、1000年以上前からあまり変わっていないところもあれば、数十年で大きく変わってしまった面もあることに気づく。今後の社会における死を考えるうえで避けて通れないのは、国際化の観点であろう。
私は観光学を専門にしているため、海外調査に行くことがよくあるが、何度かかなり危ない目にあった。ここで死んだらどうなるのかという思いも頭をよぎったことがあるが、実際に実務上どうなるかは木村利惠「国際霊柩送還という仕事」に詳しく述べられている。
この話は、佐々涼子原作のドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」としてご覧になった方も多いと思うが、本書では社長自身の言葉としてこの仕事の意義や重要性が語られており、筆者としては大きな関心を寄せることになった。
当然日本で亡くなって、海外に帰られる方もいるわけで、様々な国の文化に精通していないと成り立たない仕事であることに気付く。
また死に対する国ごとの文化的な捉え方の差は法制度にも現れており、永田憲史「死刑制度を知る」では、ヨーロッパでは廃止された死刑が、日本でなぜ残っているのかという問いに関して、法学者としての立場から説明を与えている。
本書を通読して感慨深いのは、全く専門分野の違う人々が、死はもちろんのこと、葬儀・墓・遺体などについて、各自の専門分野から論じている点であろう。医者が考える死と哲学者が認識する死は、一見異なるように見えるのだが、そこには生命をどのように捉えるかという厳粛さにおいて、共通する場面や部分も出てくる。
収められた28本の論考に対峙すると、読者はその広がる世界の広さと深さにおののき、目眩に似た感情を覚えるかもしれない。本書にはあえて、前書きや後書きと言った総論部分が置かれていないのであるが、これはどこから読んでも構わないということも意味している。本稿を、書籍『死を考える』の糸口にしていただければ幸甚である。
文/井出明 写真/shutterstock