県が「調査の進め方に問題があった」と糾弾

今回わかったのは、2022年1月にBさんが警察への告訴に踏み切った時期に、県警がA氏に「事件性がない」と伝えていたとみられることだ。

話したのは、県医師会の顧問弁護士を務める新倉哲朗氏。6月27日に県医師会の大西浩之副会長と立元千帆常任理事が開いた会見に同席し、明らかにした。

「Aさんから(自分が事情を)聞いたときに、Aさんが『県警にも相談に行きました』と。で、そのときに(A氏が)お父さんと一緒に行ったかまではわかりませんけども、『県警から事件性がないと言われたんです』という話をされていますから」(新倉弁護士)

6月27日に開かれた鹿児島県医師会による会見(撮影/集英社オンライン)
6月27日に開かれた鹿児島県医師会による会見(撮影/集英社オンライン)

実は、A氏の父は2021年3月に退職した元警察官だ。A氏と父は、Bさんが鹿児島中央署に告訴状を出したか出す準備をしていた時期に同署を訪ねており、署員から“事件にならないから安心しろ”と言わんばかりの言葉を聞いていたというのだ。鹿児島中央署はBさんの告訴状受理を一度は拒んでおり、当時は本格的な捜査は行われていなかった。

新倉弁護士はさらに、A氏から聞いた内容を医師会の当時の池田琢哉会長に伝えたとも話した。池田氏は新倉弁護士からこの報告を受け、Bさんの告訴から1カ月も経っていない2022年2月10日に、所管の県くらし保健福祉部を訪問している。

「このとき池田氏は、A氏と父親が警察に相談して『刑事事件には該当しないと言われている』と発言しながら、『強姦と言えるのか疑問』と主張しています。また、その12日後の2月22日には、当時常任理事だった大西氏も、医師会内の集まりで同主旨の発言をしています。

つまり、医師会最高幹部は調査委員会が動き出す前から、性行為は合意だったという方向性を外部にも口にしていたわけです。この経緯を、県は最後まで問題視しました」(鹿児島県関係者)

そもそも、いい大人であるはずのA氏が、なぜ父親を伴って警察に出向くのか。これについて立元氏は、会見で「告訴される、もしくは告訴されていると考えて中央警察署に行ったというふうにお聞きしています」と話した。

鹿児島中央警察署(撮影/集英社オンライン)
鹿児島中央警察署(撮影/集英社オンライン)

告訴されると考えて警察に出向いたのなら、自分に非はないと訴えに行ったのではないのか。そう問うと、立元氏は「そこの詳細については、私はさすがに当事者ではないので、わかりかねます」と言うだけだ。

その後、県医師会は2022年3月から7月までに、6回の調査委の会議を開催。前述のとおり、2022年9月に性行為は「合意の上」だったとする報告書を県に提出している。

「県への報告で医師会は、コロナ療養所での性行為は不適切だが、A氏は一定の社会的な制裁を受けたとして情状を酌量し、停職3カ月にすると伝えました」(鹿児島県関係者)

ところが、県はこの報告に強い不快感を示した。同じ関係者が続ける。

「性行為については、知事名の書面で池田会長に厳重注意が言い渡されました。しかし、それは表の話です。実は県は、調査自体に問題があったと口頭で厳しく注意しています。

関係者の聞き取り前から『行為が複数あった』『強制であったかどうか』との問題発言をした理事が調査委員会に入ったことを挙げ、『調査の進め方に問題があった』と断言しました。

さらに県は『実名が報じられたわけでもないA氏が、何をもって社会的制裁を受けたのか』と追い打ちをかけています」(県関係者)