一風堂の期待不一致モデル

これは「期待不一致モデル」と呼ばれる考え方で、消費者は、実質値(実際の商品・サービス)が期待値(主観的な期待)を超えるときに初めて満足してくれる。つまり満足度は絶対評価ではなく、相対評価となる。

いい商品やサービスが、必ずどんなお客でも満足させられるわけではない。消費者1人1人の頭の中の期待値が高すぎれば、いいモノでも物足りなく受け止められ、不満を招いてしまう。

味が変わらないラーメンは、初めて食べたお客を1回目は満足させることができたとしても、その味は「次の期待値」の基準ラインになる。だから、期待値が高まっている状態で2回目に食べるとき、同じ味を食べたお客は、「1回目は感動したんだけど」と拍子抜けすることになりやすい。

また、「変わらない味」を提供し続けても、好みが変化したり、住まいやライフスタイルの変化で来店しなくなったりと、一定数の既存客は離れていくものだ。

そもそもラーメン店は設備投資を抑えられ、小規模での開業が可能だからこそ他の専門料理店より参入障壁が低いと言われている。業界には次々と新たな味が生まれてくるのだ。

ちなみに2023年のラーメン店の倒産、休廃業数は過去最多だった。※3 競合の多さもラーメン店という業態の特徴だ。

世界に274店舗、とんこつラーメンの一風堂が世界中で顧客を魅了し続ける“期待不一致モデル”の戦略とは_3

同じ価値を提供しても既存の顧客を繋ぎ止めておくことが難しいラーメン店という業態においては、進化によって「新しい価値」を提供し続け、離れていく既存客以上に、新規客を呼び込んでいく攻めの姿勢こそが、長期的に重要なのである。

付け加えると、看板メニューの味の進化だけでなく、期間限定メニューの新鮮味、気の利いた接客、ポイントサービス、店内やトイレの清潔さ、行列時の対応、商品の提供スピードなど、ありとあらゆる要素で新しい価値を作り、お客にうれしい驚きを届けることが求められる。
 

ラーメン店にとって最高のほめ言葉は、「来るたびにおもしろいことをやっている」「この店は進化が止まらない」になる。

変わり続ける一風堂は、その進化を通じて、お客に感動を提供し続けている。だからこそ、世界中で愛されるラーメン店としての成功を実現しているのである。

文/永井竜之介

写真/shutterstock


参考文献

※1 東洋経済オンライン「一風堂のラーメン「飽きられない」本当の理由」
  https://toyokeizai.net/articles/-/93389?display=b

※2 一風堂「NEWS 【10/16(月)~順次】看板ラーメン 白丸・赤丸・からか麺をリニューアル!」
https://www.ippudo.com/news/231016-ramen-renewal/

※3 東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198316_1527.html