依存症についてすべてをさらけ出した芸能人はいなかった

――ナカムラ監督は取材をする中で、どんなことを感じましたか。

ナカムラ 私が感じたのは、どんなに真面目に治療のステップを踏んでいても、そう簡単に、短い時間で回復するものではない、ということです。治るまでには何年もかかる。それは高知さんもそう。白でも黒でもない、グレーの時間がすごく長いんです。グレーでいる間に、自分でも疑心暗鬼になるし、スリップ(依存症の再発)の恐怖とも戦っている。そんなときに世間から冷たい言葉をかけられたら、どんなに辛いか。そのことを社会にも知ってほしいと思いました。

田中 依存症は完治するっていうことがないんですよ、慢性疾患だから。でも糖尿病と同じで、きちんと管理し続ければ問題なく過ごせる。

「オーバードーズで亡くなった海外の俳優の洋画はよくて、日本の俳優が薬物で捕まると上映中止になる意味がわからない」高知東生9年ぶり商業映画はギャンブル依存症がテーマ_5

――病状の回復が厳しい道のりであることはもちろん、それとは別で、新しい仕事に就いたり、人間関係を構築したり、社会生活への復帰のほうにも厳しい道のりがありますよね。

田中 そういった社会復帰への手助けも自助グループではやっています。病気も回復して、新しい仕事も見つかって、人間関係も良好で、なんて一気にできるわけがない。少しずつ仲間たちと支え合う中で、復帰の道を目指すしかない。それこそ高知さんだって、今でこそ全国で講演活動をされていますけど、私が最初に講演の依頼をしたときには、めっちゃ嫌がってましたからね。

高知 そりゃあ嫌でしたよ。だって、同じ依存症の仲間たちにでさえ心を開くのが大変だったのに、経験もない、理解もしてくれるかわからない、そんな大勢の人たちの前で、素直に自分をさらけ出せるわけがないと思ってましたから。自分自身、歪んだ認知のかたまりが大きかったせいで、溶かすのにもだいぶ時間はかかりました。
 

田中 芸能界の第一線で活躍していたのに、逮捕されていろいろなものを失った、そのことを高知さんは恥だと思っていたわけです。そんな恥ずかしい経験を他人に話すのは、誰だって嫌ですよね。でも、私は絶対にやってほしかった。きっとそれが復帰に繋がると思っていたから。

高知 これまでに薬物で逮捕された芸能人はたくさんいるけど、その体験をさらけ出して、素直にすべてを語った人なんて一人もいなかったんですよ。参考になる人が誰もいない。そりゃあ怖いでしょう。