「設備投資したくてもイメージがまったくわかない」…全国の梅農家から嘆きの声
農家による漬物製造が途絶えつつあり、ふるさとの味が消滅しようとする現在。その流れを阻止するべく立ち上がった、和歌山県みなべ町にある若手梅農家の集団「梅ボーイズ」という団体がある。廃業を考える梅農家の設備投資を支援し、全国の梅産地に梅干しの製造所を作るプロジェクトを進めている。
現在までに愛知県と神奈川県の3カ所で製造所の整備をサポートし、主に水道まわりや壁の修繕などの支援を行っている。
そんな梅ボーイズの下には、全国の梅農家から嘆きの声が多数寄せられているのだとか。
「みなさん、改正された法律に基づく製造所が完成した後のイメージが湧かないと口を揃えておっしゃっていますね。というのも、梅干しの製造は自宅の作業場やキッチンで行なう農家さんが多かったため、改めて製造所を設けたとしても実際の製造方法が想像できないんだそうです。
80代の梅農家さんからも相談を寄せられていまして、『やり方がわからなくてどうしようもない』『今までの方法と違いすぎてまったく見当もつかない』と、やはり新しいやり方に対応できていない印象です。
また保健所の方から現在の製造環境に問題があると指摘を受けても、製造所に適した設備を揃えるにはどうすればよいかまでは教えてくれないことが大半。梅農家は高齢化が進んでいまして、仮に見積もりができたとしても、年齢を理由にいまさら工事までして今後も続けていく必要がないと思う人も多い」
漬物の種類ごとに規制を設ける必要があると思う
梅ボーイズでは、小規模体制での梅干し製造のノウハウを活かし、通常200万円前後かかる設備投資費用を100万円程度にまで抑えることが可能となっているようだ。
設備投資のノウハウがないうえに農家全体の高齢化といった理由が重なり、このままでは漬物製造は衰退してしまうというが、そもそもの改正内容も問題だと山本氏は語る。
「今回の改正では、漬物の種類ごとに規制を設けていません。本来であれば、塩漬けや浅漬けといった漬物の種類によって、塩分濃度や消費期限は変わってきます。漬物は本来、保存に適した食品ですので、きちんとした塩分濃度さえ守っていれば、食中毒の可能性は低いのですが、その点が考慮されないまま基準が決定してしまい、少々残念ですね。このままだと昔ながらの漬物が姿を消してしまうかもしれません。
梅干しのみならず、漬物は日本の食文化において大切な食品であることは間違いありません。農家さんのなかには、法改正後の具体的な対策がわからない方が多いので、引き続き支援していくのが我々の使命だと考えています」
漬物の将来はどうなっていくのか。農家や支援団体のみならず、ふだん漬物を食べる人も、食べない人も大切な日本の味が消えてしまわないために考えを巡らすべきではないか。問題を漬け置きする事態だけは避けたい。
取材・文/文月/A4studio 写真/shutterstock