シリコンバストが人気
設定を固めたら、いよいよラブドールに近づけていく。ここでのポイントは、衣装やメイク、ウィッグなど、外見の加工は新さんはじめ製造側が決める点だ。どれほど露出するかなど必要最低限の要望を聞き、それ以外は作り手が主導権を握ることで、応募者はより“人形になった没入感”を味わえる。
メイクは新さんが独学で確立させた、ラブドールに近づけるメソッドがある。
「私自身2体のラブドールを所有しており、そこから造形を研究してきました。ラブドールは目がかなり大きくて、そのぶん鼻と口が小さい。輪郭は丸顔が一般的で、ほっぺを丸くして幼さを感じさせ、肌質は毛穴がまったくなくてマットな質感です。要はかなり人間離れしているので、応募者が持っている顔面の特徴や土台をいったんメイクで消してから、ラブドールらしいディティールに近づけていくんです。
しかし、最近のメイクのトレンドは、ラブドールの質感とは真逆。肌のツヤ感を出したり、フェイスラインをスッキリ見せて、輪郭を逆三角形の小顔に寄せるのが流行っているんです。だからこそ顧客は、完成した自身の姿を見たときに、ふだんとは違うメイクに驚く方が多いですね。
それから顔面と同じくらい重要なのが、胸の加工です。私たちは“おっぱいメイク”と呼んでいるのですが、できるだけブラのほうにお肉を寄せて、おっぱいを大きくして、撮影映えするように意識してます。やっぱりそのほうが満足度が高いんですよ。
それにHカップぐらいのシリコンバストを装着する人も多いですね。もうアニメのような、形も大きさも完璧な乳で、装着すると変に気分や自己肯定感が上がるんですよ! それにシリコンバストは作り物なので、女性でも堂々と胸を露出できて、ふだんは味わえない解放感も堪能できるんです」
仕上げはラブドールの周りに“使用済み”を連想させる、くしゃくしゃに丸めたティッシュを散りばめる。なかには“疑似精子”を身体にかけて、さらにディテールを満喫するケースもあるそうだ。
こうした一連の過程を経て、体験者は変身後に初めて鏡を見てラブドールとなった自分と対面する。顧客に変身する過程を見せないのも、完成後の衝撃を強く感じてもらうためだ。
「変身後は『自分の新たな一面が垣間見えた』と話してくれる人が多いですね。例えば、目が切れ長ゆえにふだんはクールなメイクをする人が、かわいらしいラブドール風の自分の姿に驚いて、鏡の前で何回も回っていたりして、うれしかったのを覚えています。
あとは『自己肯定感が上がった』『幽体離脱したみたい』という声も聞きます。綺麗なラブドールとして写真を撮られたり、それこそ人形として愛でられることで、自分を受け入れやすくなった、と。それに自分でメイクすると、加工や写り方を気にしがちで、なにかと見栄や好みが付きまとってしまう。でも、人間ラブドール製造所では我々が加工を一任するので、そうした自意識から切り離されて、純粋に変身を楽しめるというのも好評です。
ラブドールに変身したい動機や変身した後の感想が、人それぞれ異なるのも、人間ラブドール製造所を続けている醍醐味ですね」
側から見れば、単に変身願望を満たすサービスのように見えるが、その内情は奥深い世界が広がっている。
取材・文/佐藤隼秀