憂鬱が溢れる世界でエンタメがやるべきこと
――SOPHIAの30周年イヤーの活動のひとつとして、舞台『Change the World』の主演を決めた理由はなんだったのでしょう?
松岡充(以下、同)
30代あたりから、近い人の病気や死に直面して命というものに向き合うことが増えてきて、自ずと自分の人生についても考えるようになって。(SOPHIAの)活動休止の理由も同じで、長く活動を続けて、突っ走ってきたので、メンバーそれぞれが自分の人生について考える時間や、何かにトライする時間を持つべきだという想いが芽生えたんですよね。
幸いなことにバンドは復活しましたが、一人のアーティストとして僕は、残された時間を生きていく中で、デビュー当時のように「将来のためになんでもチャレンジする」という時期はとっくに終わったと思っていて。
特に今年は30周年に重きを置きたかったので、舞台などバンド以外の活動をやろうとは考えていなかったんですけど、『Change the World』の制作チームから、どうしても話を聞いてほしいと熱意が強かったんですね。そして(脚本の)秦(建日子)先生とお会いすることになったんです。お会いする前に僕は原作を読ませていただいたんですが、SOPHIAの10年ぶりの新曲「あなたが毎日直面している 世界の憂鬱」と『Change the World』に共通するものが見えて。秦先生も「この曲は僕がこの小説で伝えたいことと共通しているから、テーマソングにしたい」と言ってくださって。この舞台を一緒に創っていきたいと気持ちが動いていきました。
――物語のメッセージには、今、SOPHIAとして表現したいことと共通する部分もあったのでしょうか?
そうですね。たとえば…今日、取材していただいて、SOPHIA30周年に関しての記事がネットニュースとして出ていきますよね。その画面を横にスクロールすると、ガザ侵攻のニュースがあり、かたや為替の覆面介入の話題がある。横の広告では、インフルエンサーが踊りながらなにかをアピールしてる……そういうふうに、みんなそれぞれの小さい世界を一生懸命生きているけど、それは共通の世界ではなくて。
でも全部、同じようにこの世界の「今」という時間に存在している。未来を生きていく若い世代のことを思うと、そんな世界について考えざるを得なくて。この世のいろんなところに憂鬱というものがたくさんある。だからこそ、前を向けるメッセージを伝えることを、エンタメがやらなきゃいけないと思う。今きっと、みんなしんどいですよね。それぞれ生活の中で苦しみと戦っていたり、重いものを引きずっている。
だから僕らは日本のエンタメの端にいる存在として、「SOPHIAはこうなんです」と主張する活動をするのではなく、誰かの心がちょっと軽くなったり、顔を上げて太陽の光を感じたいと思えるような、前を向ける作品を提供したい。それが僕らの30周年の活動の意義になると思うんです。
――それはやはり30年活動してきた今だからこそ、はっきり言えることなんですね。
20代、30代、40代の頃は「相手のために」なんて、偽善みたいで言えなかったです。でも結局、巡り巡ってそれは自分のためになるんですよね。「この楽曲があるからがんばれる」「活動してくれてありがとう」って言ってくれる人の笑顔を見ることで、自分もまた踏み出す勇気を得られる、そういう感覚ですね。