シリーズのおもしろさを担保する技

――職業日記シリーズは、リピーター読者が多いのも特徴だということですが……。

まずは、発行部数2、3万部を目指し、その職業への関心から入ってくる読者をターゲットにしています。加えて、一度読んでみたらおもしろかったから、シリーズの前作や新作を読んでみようと思う方々が一定数いて、部数を底上げしてくれています。

こちらとしても「このレベルだったら、もう読まなくていいや」じゃなくて、「このぐらいのおもしろさはだいたいどの本も担保してるんだな」と感じてもらえるような本づくりを目指していますね。そのおもしろさに達しないのならば本を出さない、っていう自分だけの感覚的な基準もあります。

8畳のオフィスにて、中野長武さん
8畳のオフィスにて、中野長武さん

実際、イラストやカバーデザインができあがっているのに、発行を断念した作品があります。その方はある職業のシングルマザーで、お話を聞いていると、子育てしているころの娘とのやり取りがおもしろいわけです。

だから、プライベートのあなたを描くために、娘さんと喧嘩したり、仲直りしたりする描写を含めて親子関係のありのままを書いてくださいとお願いしたんです。ところが執筆が進むにつれて、「この作品ができあがったときに娘が読んで傷つくことは避けたい」と言うようになって……。

しかし私からすれば、読者におもしろいものを提供しなきゃいけない立場ですから。あなたにしか書けない、と伝えるやり取りが何日か続いて、あるときから音沙汰がなくなりました。

私は著者が隠したいことがえてして読者の読みたいものである可能性があると思っているんですね。また、著者が言いたいことだけを言うと絶対おもしろくならないんですよ。だから私がたずねたことには、すべて答えてもらいます。それがおもしろさを担保するための編集方針のひとつです。