なぜ液体窒素で死に至ってしまうのか

「液体窒素とエレベーターに同乗すると、窒息死の危険性があります。液体窒素が液体から気体に戻るとき、その体積は約700倍になり、少量でも人を死に至らしめます。

窒素はそもそも発見された経緯として、生物をその中に入れたところ死んでしまった、つまり窒息死してしまったところから『窒素』という名前になったという話があります。エレベーター内で液体窒素が漏洩してしまった場合には、その空間内に直ちに気体の窒素が充満して文字通り窒息死してしまうわけです」(有機化学を学ぶ人さん)

なんとも恐ろしい液体窒素の力。研究施設などでは、窒素が不活性で非常に沸点が低いことを利用して冷却剤などとして利用することが一般的だという。相手を冷却して自分は空気の一部として空気の中に放出されていくという利便性がある。もちろん、運搬には常に最善の注意が払われる。

「液体窒素漏洩時における窒息死の危険性があるため、一般に大学や企業の液体窒素を取扱う場所では、エレベーターなどの昇降機の中に人が同乗することを禁じています。また、デュワーと呼ばれる容器の移動の際には1人で作業をしないことも推奨されています」(有機化学を学ぶ人さん)

液体窒素 写真/shutterstock
液体窒素 写真/shutterstock
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液体窒素が漏れたことによって酸欠死した事故はこれまでにいくつかの研究所で起こっており、アメリカでは1992年から2002年の間に80名が死亡している。さらに日本でも大学の研究室で液体窒素を一度に大量に気化させたことが原因で、北海道大学工学部の助手と大学院生が酸欠で死亡する事故が起こっている。今年2月にも、高知市の小学校4校で行われた科学の出張講義で液体窒素を体育館の床にまき、児童計33人が軽傷を負う事故が起きたばかりだ。

また、液体窒素を殺人のトリックに使用したミステリー作品もある。東野圭吾原作、福山雅治主演の「ガリレオ」シリーズで、2022年に映画公開された『沈黙のパレード』は、まさに液体窒素による酸欠死が犯行のトリックであった。

同作は今年3月30日にフジテレビ系土曜プレミアム枠で地上波放送されたばかりでもあるため、液体窒素と聞いてこの作品を思い浮かべる人も多く、今回話題になったポストに対して〈沈黙のパレード見て、怖さを知りました〉〈ちょうど東野圭吾の「沈黙のパレード」読んでる最中だったので、ヒッて声が出た〉〈ガリレオのドラマ見てる時に旦那が教えてくれたな…〉といった声も寄せられていた。

たかが窒素…なんて思ったら大間違い。もしエレベーターで遭遇したら、絶対に同乗しないようにしたい。

取材・文/集英社オンライン編集部