公的機関が不利益を被る可能性も

<「被害者① 離婚後の同居親と子ども」が被る不利益>

「高葛藤な場合」の家族では、同居親と別居親は対等に話し合える関係ではないため、別居親の同意が必要なあらゆる場面で揉める恐れがある。運よく合意に至ったとしても、同居親と子どもは時間的・心理的負担を被り、最悪の場合は次回以降は○○の検討自体を諦めることもある。

当事者同士では解決できず膠着状態に陥った場合、子どもが望む○○をいつまでも実施できず、最悪の場合は意思決定できないまま時間切れになる恐れもある。別居親の同意を得られないために進学先を決定できない、修学旅行に行けない、手術を受けられないという悲惨な状況が生まれる可能性がある。
 

<「被害者② 子どもの意思決定に関係するすべての人」が被る不利益>

教育・保育機関、医療機関、塾、習い事などの関係者も他人事ではない。膠着状態に陥ったり、双方が真逆の意思決定を応酬して、親の同意を得られたのか判断できない状況になれば確実に業務に支障が出る。訴訟リスクを回避するために本来は実施すべき○○を断念せざるを得ない事態もあり得る。

これが手術であれば子どもの健康や生命に関わる事態となる。現に、別居親(=面会を禁止された父親)が子ども(当時3歳の娘)の手術前に自らは同意していないと主張して病院を訴えた結果、手術時はまだ結婚中で親権があったことなどを考慮して大津地裁が病院側に慰謝料の支払いを命じたという判例がすでにある。

この件の支払額は5万円と少額だったが、医療機関が「親権を持つ親の同意を得る前の手術は訴訟リスクがあるので避けるべき」と今後考える十分な理由になるだろう。全日本民医連は今年3月11日付で共同親権に対する懸念を声明として表明。ただ、類似のトラブルに巻き込まれることが予想される教育・保育機関からは反対声明をまだほとんど確認できず、改正案の問題意識が当事者に十分に広がっていないことが懸念される。

写真はイメージです 写真/shutterstock
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<「被害者③ 家庭裁判所 関係者」が被る不利益>

同居親が単独決定可能な範囲(急迫の事情がある場合、日常に関すること)が改正案の条文では非常に曖昧であることに関連して、当事者同士では解決できず膠着状態に陥り、家庭裁判所に持ち込まれる紛争が激増することが確実視される。しかし、現時点においても家庭裁判所は期日が2か月以上空くほど人員不足。

今回の改正案に備えて本来は人員を増員すべきだが、実際は真逆で削減方針。このような状況で共同親権が始まれば、家庭裁判所がパンクすることは目に見えている。現に、各地の弁護士会の反対声明においても、反対理由のひとつとして家庭裁判所の人員不足への懸念が多く見られる。以下、一例を列挙する。

札幌弁護士会「離婚後共同親権を導入する家族法制見直しに反対する共同声明」(2024年3月8日)*末尾で家庭裁判所の人的・物的体制の強化や財源確保の必要性に言及

金沢弁護士会「共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める声明」(2024年3月21日) *3段落目で家庭裁判所について、人的体制(裁判官、家裁調査官、書記官、調停委員等)の強化、物的体制(調停室、待合室等)の充実の必要性を具体的に指摘

福岡県弁護士会「離婚後共同親権の導入について、十分に国会審議を尽くすことを求める会長声明」(2024年3月22日)  *末尾で家庭裁判所の人的・物的体制の充実の必要性に言及