「なんだか賑やかになってきたな。ありゃ俺んとこだわ」

さらにこの男性は、Aさんの息子についてこう話す。

「糖尿病かどうかは知らねえけど、太ってはいたな。何の病気かなんてのは知らねえけど、介護に近いことはしてた。その息子のメシを作って風呂も入れてんだから、大変は大変だったろうな」

遺体を放置したのは本当に葬式代に困っていたからだろうか。

「金はなかったな。俺も7万円か8万円貸してて、年金が出る15日に返してもらう予定だったんだけどな。20年来の付き合いだから、いちいち何に使うんだなんて聞かねえ。金が欲しいなら貸してやるから持ってけって言うだけだ。

そもそも7~8年前に娘が病気して病院で亡くなったときもな、金がねえからって葬儀屋を断っていたんだ。けど、最終的には俺が出してやった。金額はそんなかかってねえよ。あいつ、部屋も暑いのに扇風機しかなかったから、俺が金を出してやってエアコンもつけたんだ。テレビを買う金も俺が出してやった」

壁に残された落書き(撮影/集英社オンライン)
壁に残された落書き(撮影/集英社オンライン)
すべての画像を見る

 

遺体発見当日も、「ふだん通り」の様子だったという。

「あの日、息子のことが気になって『やつは最近ちゃんとメシ食ってんのか?』って尋ねると、『一杯だけだけどちゃんと食べてる』なんていつもの様子で言ってたんだぞ。まさか亡くなってるなんて思うわけねえだろ。

そのうちに団地内にパトカーやら救急車やら警察やら来て騒ぎになってるのがウチの窓から見えたんだよ。それを見てもAは慌てる様子なんて一切見せず、『なんだか賑やかになってきたな。ありゃ俺んとこだわ』って、じゃあちょっくら行ってくるわみたいな感じで帰っていった。

ほとんど毎日ウチに来ていたからウチの鍵も持たしておいたんだけど、それ持ったまま逮捕されちまってな。普通は捕まるかもとか思うだろ。やっぱりおかしなやつだよ」

男性は口調は荒いものの、Aと本当に仲がいい様子が伝わってきた。市営団地の他の60代女性住民はこう語った。

「事件のことは知っています。Aさんとはお付き合いがなかったんで、どんな方かもよくは知りませんが、お金がなかったというのは本当なんだろうなって思います。家賃は広さや人によって違うでしょうけど、ウチは20600円です。安いでしょう? お金がある人はここには住まないでしょう。だから葬式代がなかったという可能性は全然あると思いますよ」

令和の日本の縮図を見るような事件。言いようのない後味の悪さを感じ、団地を引き上げる足が鉛のように重かった。

※「集英社オンライン」では、高齢者の介護や貧困にまつわる事件や8050問題について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

X(Twitter)
@shuon_news

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班