現役時代は銀行員だったA「金はある」と話していたが…

ボロボロのTシャツ姿の長男が団地の広場を歩く姿は、この界隈では有名だったようだ。伸び放題でボサボサだった髪が坊主頭になっていると「Aがバリカンで刈ってやったんだな」とみんなが思っていた。

Aは現役時代は銀行員だったようだ。同じ号棟に住む女性がこう振り返る。

「あんな事件になるとはねえ。Aさんはよく『俺はもともと銀行員だったから年金も高いんだ。だからお金は持ってる』なんて言っていましね。見た目は90歳には見えないくらい元気で、シャツとか着て小ぎれいでしたけど、息子は本当にボロボロの格好でしたね。

遺体が発見されたのは、お巡りさんが家族構成とか聞きに来る定期巡回の際、Aさんの家のドアが開けっ放しになっていて気付いたようです。本人がいないときに救急車やらパトカーが何台もやってきて騒然となっているところ、帰ってきたみたいですよ」

家の中はふだんから「ゴミ屋敷」だったようだ。弁当の空き箱や食べかすがあふれ返り、生ゴミが腐ったような異臭が常にしていたという。記者が3階にあるAの部屋を確認しようと階段を上がっていくと、ツーンとした何かが腐ったような匂いで吐き気をもよおしそうになった。

Aの自宅の部屋の前(撮影/集英社オンライン)
Aの自宅の部屋の前(撮影/集英社オンライン)

遺体発見当時、家を空けていたというAは団地内の別の棟に住む、同年代の知人男性宅に遊びに行っていたという。2人は20年以上の付き合いで、この男性に当日のことをたずねてみた。

「Aは毎日ウチに来てたんだよ。俺は肺を悪くして、動くと呼吸するのが苦しくなる。だから金を渡してあいつに買い物を頼むんだが、しょっちゅう間違える。

2つ買ってこいって頼んだパンを1つしか買ってこねえから『なんでだ』って聞くと『忘れちまった』って言うんだ。あいつも90歳だから頭が弱ってたのもあるんだろうが」

男性によれば、Aは関西の出身だったという。

「たしか兵庫県とかその辺だったな。妹がいるらしいけどここを訪ねてきたことなんてねえ。奥さんはだいぶ昔に亡くしているって聞いてて、団地に来たときは娘と息子とAの3人だったと思う。

もともとあいつは婿さんでな、奥さんの親族のコネで銀行に勤めていたらしいよ。昔から娘と息子の面倒を見てきたんだ。そういう意味では苦労もしてるし可哀そうなやつだよ」