「いい選手が出てきたなァ……」
イチローを初めて見たのはジュニア・オールスターで彼がMVPを獲った時ですから、今から4年前。テレビで見たのですが、「いい選手が出てきたなァ……」と、まず思いましたね。
第一印象は〝上から当てにいくバッター〞じゃなく〝振りきるバッターだなァ〞というもの。体は細いんですが、きちんとバットを振り抜いているんですよね。
こういうバッティングなら長打が打てるし、力負けすることもない。それでいて足も速いし、魅力的な選手だなァ、と……。
もちろん、ピッチャーからすればコツコツ当ててくるバッターはイヤなんですよ。だけど、ひとりのバッターとして見た場合、やはり振り抜くほうが怖いし、魅力的に映る。ヒットよりもホームランのほうが、こちらが受けるショックも大きいですからね。
ブライアントがそうだったでしょう。三振も多いけれど、バットの芯に当たると、とんでもないところまで打球が飛んでいく。同じ配球で3打席、凡打に切ってとれたとしても4打席目にはガツーンとホームランを打たれてしまう。あるいは9回打ちとっても、10回目にはスタンドに持っていかれてしまう。これが怖いわけですよ。
そういうバッターの長打力を踏まえて投げるのと投げないのとでは、精神面にかかる負担はまったく違います。どんなにいいバッターでも〝ここはヒットですめばいいや〞と考えを切り換えれば、そう心配することはない。
ところがホームランは、それ1本で負けにつながることがある。だから一発のあるバッターに対しては、こちらもより慎重にならざるをえない。要するに〝たまに〞が怖いわけです。
イチローの場合、ヒットもホームランも両方打つことができる。ホームランを打てるボールは、かなりいい確率でスタンドにまで持っていくでしょう。
これは一流のバッターの証拠といえるんじゃないかな。とにかくイチローが、非凡な才能の持ち主であることはたしかですよ。
バットを振り切るということは、簡単そうでいてじつは難しいことなんです。多くのバッターは皆、期待されてプロ野球に入ってくるわけですが、それでも一軍のレギュラーとしてバットを振り切れる人は、そう多くはない。
本当は誰だって思いきり振り抜きたいと思っていると思うんです。実際、アマチュア時代はホームラン・バッターだったのかもわからない。