初めての映画音楽作成、200時間以上もスタジオに籠った
そこでプロデューサーだったジェレミー・トーマスに対して、「右も左も何も知らないので、何か一つだけ参考にしろというんだったら何がいいか」と正直に尋ねたそうだ。
「そしたら『市民ケーン』を参考にしろとジェレミーが言った。かっこいいでしょう? こいつは頭がいいと思ったよ(笑)」
坂本龍一は撮影中に、たった一度だけカメラのファインダーを覗かせてもらった時、音楽が聴こえてきたと言っている。
「メロディーのないたった一音の音だけど、無数の音がひしめき合ってる。そんな感じの音群だった」
初めての映画音楽を前に、200時間以上もスタジオに籠って仕事をし続け、あの有名で感動的なサウンドトラックが作られたのだ。
「映画ができて、試写の時にジェレミーがイギリスから来たのね。ジェレミーはその時初めて聴いただけ。あたまの五分ぐらいか、タイトルの音楽が終わるまで聴いて、すぐ連れ出されて、『ユー・アー・ノット・グッド、‥‥‥バット・グレイト!』と言われた。うれしかった」
坂本龍一はジェレミーと友達になれたことから、その後ベルナルド・ベルトルッチとも出会って、アカデミー賞を受賞することになる映画『ラストエンペラー』に出演して音楽を手掛けることになる。
こうして人と人がつながることで才能と才能が出会い、相手を理解して信頼することによって、時として歴史に残る作品が生まれるのだ。
文/佐藤剛、中野充浩 編集/TAP the POP
参考・引用文献
坂本龍一著「seldom illegal 時には、違法」(角川文庫)
『戦場のメリークリスマス』パンフレット、DVDブックレット
(※)大島渚監督葬儀 坂本龍一、弔辞で「戦メリ」出演時の思い出語る(映画.com ニュース/2013年1月22日)