『戦メリ』出演の決め手は“勘”

ところで映画の出演依頼を受けた時の坂本龍一は、精神的にはヘヴィになっていた時期だったという。

予想していなかったイエロー・マジック・オーケストラ(以下YMO)の世界的なブレイクがあり、5年間を駆け抜けた後でパブリック・プレッシャーを背負っていたからだ。

そうした時期を抜け出すことができたのは、映画出演がいいきっかけとなった。大島渚監督がYMOの活動にも注目してくれたことが、世界的な規模で製作される映画出演につながったのである。

「それまでも映画の依頼は何本かあったけど、断っていたのね。別に、やってもいいけど、特にやる必要もないと思っていたから。でも、『戦メリ』ではやったほうがいいと思ったんだ。やっぱり勘で、絶対やったほうがいいと」

『【予告編】『戦場のメリークリスマス 4K修復版』』。アンプラグドより

デヴィット・ボウイが主演する映画ならば、成功するかしないかは別として、世界中にいるボウイのファンが注目する。そして世界の音楽シ-ンに関わる重要な人たちもまた、ボウイの映画ならば必ず観るに違いない。

ボウイと一緒に映画をやれることに即座に反応したのは、自分が生きてきた音楽の世界という共通点があったからだろう。

坂本龍一が演じたのは、満州へ転属となったために、二・二六事件の決起に参加できなかった無念を抱いた過去を持つエリート武官のヨノイ大尉。

ちなみにこの役をめぐっては、当初は高倉健や三浦友和や沢田研二に台本が送られた。そして滝田栄に落ち着きそうになったが、クランクインを待ち続けているうちにNHKの大河ドラマが決まってしまい、映画初出演というYMOの坂本龍一に決まったのだ。

しかし、音楽をやらせてもらうことを条件に俳優に起用された坂本龍一だったが、実はそれまで映画音楽を手掛けたことは一度もなかった。