そもそもサロペットってどんな服?
ところで、そもそもサロペットって何? オーバーオールと何が違うの? という疑問を持たれる方もいるのではないだろうか。
調べてみたところ、同じように肩ひもがつき、胸元を覆う布がついている作業用ズボンで、背中の部分にも布があるのがオーバーオール、背中の部分が大きく開いているのがサロペットと呼び分けられているらしい。
しかしその呼び分けも実は日本限定のもので、さほど厳密ではない。
このワークマンのサロペットにしたって、背中の部分にしっかりと布がついているではないか。
実は両者は本来同義語で、オーバーオールは英語、サロペットはフランス語というだけの違いなのだ。
オーバーオール=サロペットと呼ばれる作業着が誕生したのは、19世紀後半、西部開拓時代のアメリカだ。
当時はカリフォルニアで大規模な金脈が発見されたことにより、アメリカ国内はもちろんヨーロッパからも一獲千金を夢見る人々が西部を目指した、いわゆる“ゴールドラッシュ”の時代でもあった。
オーバーオール=サロペットとは、砂金を求めて泥まみれになって働く労働者のために開発されたワークウェアで、テントなどに使われる丈夫なキャンバス生地の胸当て付き作業パンツが原型になったのだという。
そんな原点へ思いを馳せ、ワークマンのサロペットは、やはり都会よりも田舎で過ごしているときにいっそう着たくなる。
僕は東京と山梨に家を持つ二拠点生活者だが、サロペットが大活躍するのはもっぱら山の家に行ったときで、現地ではここのところ、ずっと着っぱなしの状態になっている。
そして僕にとってオーバーオール=サロペットとは、好きな音楽ジャンルであるサイコビリーの源流にあたる、“ヒルビリー”のスタイルというイメージだ。
ヒルビリーというのはもともと、アメリカの山間地域であるアパラチアやオザークに住む“田舎者”を指す、やや差別的ニュアンスを含む言葉。
田舎で自由かつ無秩序な生活を送り、貧乏で学がなく、汚れたオーバーオールを着て乱暴な言葉を使い、気に入らないことがあると銃をぶっ放す人たち、これがヒルビリーのステレオタイプである。
ネガティブな印象ばかりと思えるかもしれないが、息苦しい都会生活を送る近代アメリカ人にとって、素朴で自由、豪快なヒルビリーは、差別対象であるとともに一種の憧憬の対象でもあった。
ヒルビリーへの憧れは、彼らが作った独特の音楽を、アメリカ全土のポップカルチャーに押し上げたことでもわかる。
20世紀前半から彼らが奏でていた音楽は当初、アパラチアミュージックやマウンテンミュージック、あるいはヒルビリーミュージックと呼ばれていたが、1940年代にはカントリーミュージックという呼称で定着し、21世紀の現代でもアメリカ人の郷愁を誘う音楽として広く親しまれている。
カントリーミュージックが定着する一方、1950年代にはヒルビリーミュージックをロックンロールと融合させたロカビリーが生まれ、1980年代にさらにパンクが融合してサイコビリーが生まれる。
つまり何が言いたいかというと、僕が好きな音楽ジャンルのひとつであるサイコビリーにとってオーバーオールとは、ルーツを感じさせる由緒正しい服装だということだ。
まあ、そんなこたぁ、2022年のワークマン製サロペットには何の関係もない話なのだが。