ネオンからLEDへ……「電飾」の変革をきっかけに分岐した“来なかった未来”
サイバーパンクな世界観を表現するのに欠かせないのが「電飾」。サイバーおかんの服装にもそうした意匠が取り入れられているが、目をひくのは『セオイネオン』という作品だ。
文字通り背負えるネオン管で、まさに“サイバーおかんの相棒”ともいえる作品。実はこれよりも前にLEDの電光板を組み込んだ着物の帯を作っており、そちらが『セオイネオン』の前身とも呼べる作品だった。当初はこの着物を着てサイバー活動をしていたが、ふと自身がとんでもない過ちを犯していることに気付く。
「80年代のサイバーパンク作品の電光ってLEDじゃないんですよ。というか、LEDで三原色を表現できたのって、1993年に青色LEDが発明されてから。それまでは“ネオン管”だったんです。80年代のサイバーパンク感を下地に活動している自分が、ネオンを背負っていなかったとは……」
大いに反省したタナゴさんは、そこからネオン管でサイバー作品を作ることを決意。しかし、ネオン管はそう簡単に手に入るものではない。そのもどかしさをTwitterでつぶやいていたところ、知り合いのツテで静岡のアオイネオン株式会社というネオン管の製造も手掛ける看板デザイン会社の人とつながり、ネオン管を都合してもらえることに。そして、誕生したのがこの『セオイネオン』というわけだ。
ネオンのギラギラとした光は、なぜこれほどまでにタナゴさんを惹きつけるのか。
「そうですねぇ……ネオン管からLEDへのシフトって、『80年代のSF作品が描いてきた21世紀』と『現実の21世紀』の分岐点に思えるからです。LEDの登場でごついネオンの光に満ちた21世紀は、『分岐した未来』になってしまったんですよね」
おもしろいことに、「分岐した未来」に回帰するムーブメントは、形を変えて海の向こうでも起きている。
今、海外で人気の音楽ジャンル“シンセウェイブ”。これは20代後半から30代のアーティストが中心の音楽ジャンルで、80年代SFをベースとしたシンセサイザーの旋律と、ネオンのイメージを取り入れたビジュアルがキーとなっている。この音楽の根幹となる思想が、まさに彼女の求める「分岐した未来への回帰」なのだ。
「ネオン管を通して『分岐した未来への回帰』に気がついた時は叫んじゃいましたね。それが同時期に音楽でも起きているんだから、『サイバー、来てるんとちゃう?』って」
タナゴさんのサイバーおかんとしての活動が、“来なかった未来を現実社会に呼び戻そうとすること”であるならば、それはある意味、ヒロイックですらある。夜な夜な変身するヒーローのようにサイバーおかんになるタナゴさんは、80年代回帰を叫ぶ世代にとっては本当の意味でヒーローなのかもしれない。