メンドーサ監督は義足であるということを決して誇張して描かなかった

マイノリティをマジョリティの目線から描かないこと。『義足のボクサー GENSAN PUNCH』主演・プロデューサー尚玄さんインタビュー_h
中央の青いTシャツの男性がブリランテ・メンドーサ監督。
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マイノリティをマジョリティの目線から描かないこと。『義足のボクサー GENSAN PUNCH』主演・プロデューサー尚玄さんインタビュー_j

──そのメンドーサ監督の演出なんですけど、無駄な説明は一切せず、ストーリーがどんどんテンポよく進んでいくので本当に心地いいテンポですよね。日本での挑戦が断られた、すぐフィリピンに飛んだ、フィリピンのマグロ漁の街のジムに入った、仲間に恵まれた、試合に出た、恋をした、どんどん進んでいく。

「メンドーサ監督は事前に俳優に脚本を見せず、シーンの直前で、どういうことをやるかと伝えられる。いわば、家の全体の設計図を見ないで、コツコツ作っているような感覚なんです。だから、ぶっつけ本番なので、記憶も今、あんまり残っていません(笑)。

映画が完成して、改めて全体像を見た時、大胆に削ぎ落とした部分があることに気づきました。僕が完成作から感じたのは、メンドーサ監督は義足であるということを決して誇張して描かなかった。マイノリティをマジョリティの目線から描かず、主人公はたまたま義足であったけど、ただ一人の男としての挑戦を描いている。それが尚生がボクシングを通して証明したかったことじゃないかと思います。」

マイノリティをマジョリティの目線から描かないこと。『義足のボクサー GENSAN PUNCH』主演・プロデューサー尚玄さんインタビュー_k
主人公、尚生が入所したボクシングジムの食事の風景。ジムのオーナーの娘役はフィリピンの国民的女優、ビューティ・ゴンザレス。

──映画を見ていると、マグロの街ということもあり、街の匂いが濃厚に匂ってくるかのようでした。

「確かに街の匂いはあるんですけど、僕は20代の頃からバックパッカーでヨーロッパやアジアのあちこちを巡っていて、コロナ禍の直前も、ちょっと時間が取れたのでプエルトリコとドミニカ共和国にリュック一つだけ持って行っていたので、あまりそこは気にならないというか。ただ、役としてあの町に居なくちゃいけないので、そこは旅慣れた感じは出しては行けなかったんですね。

実際にジェネラルサントスのジムに、撮影の半年前に半月ほど一人で置いていかれて、地元のボクサー達と実際の練習メニューをしていたんですけど、家族を養うために闘っているフィリピン人選手が結構いるんですよね。日本でも、もちろんそういう状況の人はいると思うんですけど、自分自身の為に戦うというよりも、家族の為にリングに上がっている。そこの違いに色々と感えさせられるものがありました。

むしろ困ったのは、一俳優として、自分で企画した映画作ることにたいして、それこそ日本ではあまり前例がないということで資金集めの方でした。僕にもうちょっと知名度があれば、もっと簡単だったかもしれない。自分が主役をやる映画を作るってことが、日本ではあまりなかったことなので、いろんな意味で苦労しました。幸い、完成した映画を見て、アメリカの大手のケーブルテレビHBOアジアが権利を購入してくれたんですけど、でも、僕は日本ではどうしてもスクリーンで公開したくて、そこも交渉して実現したところです」