実戦でうまくなったのではなかった

とりわけライスを偉大にしたものはいずれもフットボールの試合以外で積み重ねた努力だった。オフシーズン中のライス一人で行う訓練はコンディショニング(調整)で、チームで行う訓練は授業形式で映像を見ながらの研究、そして、個別のプレーを実際にチームメートと徹底的に練習するというメニューで構成されている。

しかし、フォーティナイナーズものちにライスがプレーをした他のチームもすべて、選手にケガをさせるリスクを冒したくないので、実戦練習を行うことはめったになかった。

ということは、ライスが行ったアメリカンフットボールの試合は、ほとんどがライスを有名にした週末の本当の試合だけだったのだ。

「NFL最高のワイドレシーバー」に天賦の才能はあったか? 生涯競技時間「150時間」に対して、彼が練習に費やした時間とは_3

ではその実際の試合時間は、フットボールのためにライスが使った時間のどれぐらいの割合だったのだろうか。控えめに評価しても、ライスは平均で週20時間をフットボールに使っていた。

その練習内容はとてもきつく、もっとも熱心な選手さえ、その一部分の量しかこなせないほどのものだった。実は20時間以上の時間を練習に使っていたという証拠もあるが、ここは控えめにみておこう。

ということは年に約一千時間ということだ。彼の20年間のプロ生活では2万時間という計算になる。ライスは生涯NFLで303試合に出場した。ワイドレシーバーとしてはNFL史上最多数の出場回数だ。

もし攻撃側が試合時間の半分を使うと仮定すれば、ライスのNFLでの生涯競技時間はおよそ150時間になる。

しかし、これは少し過大評価かもしれない。ライスはすべての試合でフィールドにいたわけではないからだ。

いずれにしても結論をいえば、アメリカンフットボール史上最高の選手が実際アメリカンフットボールの「試合」に費やした時間は、アメリカンフットボールに関することに費やした時間の1%にもならなかったということだ。

もちろんNFLの選手はアメリカンフットボールに関する時間の大半を試合以外の活動に費やすということはわかっている。そしてそれは重要なことだ。こうした選手は最高水準でプレーをし、容赦のない継続的な評価にさらされており、平日、練習試合は行わない。

彼らは平日の時間のほとんどを他の活動に費やす。この事実を認識しておかなければならない。もっとも偉大な選手であるライスの場合、この比率が他の選手に比べても極端に大きな数字となっている。