阪神が“阪急になって”初めての優勝

「この日本一がなんやといわれたら、『阪急になって初めての優勝である』と答えるわな」

スポーツニッポン大阪版で07年より人気コラム『内田雅也の追球』を綴る内田雅也は、鳴尾浜近くの喫茶店でブラックコーヒーを啜りながら最後の講義を始めた。

阪急。関西鉄道会社のライバルにして、球団設立当初は「巨人よりも阪急に負けるな」とタイガースが敵愾心を燃やした、かつての名門球団の親会社である。

前回優勝の翌年、2006年に村上ファンドの経営権取得問題から阪神と経営統合しており、阪急阪神ホールディングスが誕生した。とはいっても、「球団の経営は阪神電鉄が行う」との内部文書があると囁かれているように、これまで阪急は経営に口出しせず、旧来通りの経営陣がタイガースを運営。

それは社風が守られた半面、タイガース経営陣のぬるま湯体質がそのまま継続されたことでもある。これが、誰の目にも変化が明らかになったのが2022年のことだった。

「やっぱり勝てなかったからやろな。最近では徐々に阪急の影響力も強まってきていた。2022年の1月に矢野監督の急遽の今季限りを受けて、球団は次期監督を平田勝男で一本化した。

ところが5月に阪急電鉄の角和夫会長が岡田さんとゴルフにいった際、肩をポンと叩いて『秋になったらな』と言った。その後、球団の平田監督案は取り下げられ、岡田さんが監督になることが決定。つまり、これまでの『タイガースの監督は阪神電鉄が決める──』という図式が壊れたんや」

岡田彰布は22年10月にタイガースの監督に就任。続いて12月には阪神タイガースの11代オーナーに、杉山健博が就任。阪急出身者として初めてタイガースのオーナーとなった。

「タイガースの監督は阪神電鉄が決める」の不文律がついに崩れた瞬間――“岡田監督&平田ヘッド”が「今までは考えられない人事」といわれる理由_2
”阪神が阪急になって”初めての監督ともいわれる岡田彰布氏(写真/共同通信社)

「経営統合して以来、角和夫会長ほか阪急幹部は表向きは監督人事に口出ししてこなかった。杉山さんがオーナーになっても、経営権は実質阪神電鉄のままなのは変わらず。

だけどな。杉山さんが組織にひとり入ったことで、これまでのタイガースに蔓延り、何度となく繰り返されてきた足の引っ張り合いのような悪しき体質が鳴りを潜めたんや」

企業経営によく使われる「ナマズ効果」というものがある。イワシという弱い魚は生簀に入れたまま輸送すると、その多くが力尽きるか、弱ってしまう。しかし、同じ生簀にナマズを一匹入れておくと、イワシは“食べられる”という緊張感から泳ぎ続け、元気で活きのいいまま運べるのだとか。

まさに2023年の阪神に当てはまるのかもしれないが、「虎の中に岸一郎という異物を放り込んだ」野田誠三のミスマッチな失敗例も忘れてはならない。