認知症の診断を受けた家族がすべきこと
厚生労働省の認知症患者数の推移予測では2025年に認知症患者は730万人になると予測されています。これにMCIと呼ばれる軽度の認知障害を含めると、1000万人の大台を突破することは確実でしょう。
現役世代からすれば、それほど身近な存在となりつつある認知症が、自分の親の身にいつ起きるかと不安になることもしばしばだと思います。
親の「呼び寄せ同居の拒否」は正しい
では、離れて暮らす親御さんの認知症が疑われる状態、または病院を受診して初期の認知症であるとの診断を受けた場合、子供はどうすればいいか。
特に親御さんがひとり暮らしをしている場合、真っ先に思い浮かぶのは、子供が親を引き取って同居を始める「呼び寄せ同居」かもしません。そのほうが親の生活の面倒をみやすいし、これから起きるであろう、いろいろなことにも対応できそうです。
しかし、当の親御さんが「同居を拒否する」場合も少なくないようです。「知らない土地に引っ越すなんて嫌だ。住み慣れた家にこのままひとりで暮らすほうがいい」と。
実は、そうした親御さんの判断は、認知症への医学的な対応という観点からも正しい面があります。
高齢者の精神医療に30年以上取り組み、臨床現場で6000人以上の高齢者を診療する一方、認知症患者の「家族会」の運営にも携わってきた私の経験から言えば、「認知症の診断を受けた家族が最初にすべきこと」は「当面は何もしない」が正解だからです。
認知症が初期の段階で心がけるべきは、「ただ見守る」。この段階では、認知症患者に対する接し方や置かれた環境を変えないことこそ、一番の介護法になります。本人に病名を告げる必要すらなく、できるかぎり「昨日と同じように今日を過ごす」、そして、「今日と同じように明日を過ごす」ことが、認知症の進行を防ぐ一番の方法なのです。