転売ヤーとスーパーコピーが
スニーカーブームに与える悪影響

どれだけ販売側が対策をしても転売ヤーはその網の目を潜り抜けるため、いたちごっこの様相を呈しています。

スニーカー好きの個人が半ば宝くじを買う感覚で転売するならともかく、利益を総取りするために組織的に買い占める行為は本当にスニーカーが好きな人たちにアイテムが届かなくなるため、スニーカー熱が冷める原因にも繋がっていきました。

また、スニーカーそのものへの愛ではなくお金への執着が動機の転売ヤーたちは、時として非常識極まりない行動も取ります。

彼らは買い占めたスニーカーが二次流通市場で思ったほどの値段が付かないと、損することを恐れて商品を受け取らずにキャンセルする。

前述のように、現在は二次流通市場での人気が一次流通にも大きな影響を与えます。そのため返品分を再度店頭に並べても、一度売り切れなかったスニーカーは人気が急落してお客も手を出さない。そのスニーカーの評価が急落し、モデル存亡の危機とも言える事態にまでなり得ます。

かつてエアマックス95ブームが97年になると急に沈静化したのは、自分が好きだったものがブームによって急に俗っぽくなってしまい、それまでスニーカーを履いていたファッションアイコンの人たちが離れていった側面が大いにあります。転売ヤーのキャパが足にビニール袋を巻き付けて行列に並んだり、一瞬で完売したはずのモデルがなぜか店頭で売られていたりする光景は、スニーカー好きの熱を冷めさせ、将来のスニーカーファンが生まれる芽を摘むのに十分なほどの異様さを備えています。

そしてもうひとつ、スニーカーブームに影を落としかねないのが、いわゆるスーパーコピーと言われる精巧な偽物の登場です。

かつての偽物は素材や作りの悪さで簡単に見分けることができましたし、メーカーも正規品にタグを付けたりと、コピー品の流通を防止する対策を取り続けています。しかしスニーカーブームによってプレ値が付いたことで、コストをかけて偽物を作っても利益が出るようになったこともあって、俗にスーパーコピーと呼ばれる偽物が流通するようになっていきました。

一説によると、スーパーコピーが誕生した背景にはメーカーから生産を請け負っている海外の工場が製品を作る際の仕様書を別の工場に売り渡したり、素材を横流ししたりするなどの要因がある、と言われています。

そのため、スーパーコピーは素材や仕様も本物と同一で、むしろ縫製などは本物よりも丁寧なことすらある。箱やタグといった付属品でも見分けがつかないこともあって、YouTuberが鑑定士を擁する二次流通サイトにわざと偽物を送りつけたところ見分けがつかずに炎上した、という事件まで起こったほどです。

つまり、スーパーコピーはプロが現物をチェックしても判断がつかないほどの出来栄えのため、素人が写真で見分けることはほぼ不可能です。

しかも、ヤフオクやメルカリなどのオークションサイトでは商品画像には本物を載せておいて、偽物を送りつけるという詐欺の手法もあります。店舗で購入したレシートを本物である証明書として添付することも一般的ですが、そのレシートすら偽造されている始末です。「アトモス」でも、警察から「オークションサイトで落札したスニーカーが偽物でアトモスのレシートが付属していた」と連絡があり、レジを確認したところ該当する販売記録が無かった、ということがしばしばありました。

“スニーカーブームの生みの親”atmos創業者が明かす「転売ヤー」「スーパーコピー」との知られざる戦い30年史_3
独自入手したハイプスニーカーのスーパーコピー品の写真。付属品まで揃い見分けが難しいが 真贋鑑定でFAKEと結果が出た。
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アジアで人気を博している某シルバーブランドのデザイナーは製品が本物である証明として購入者と一緒に写真を撮るようにしているのですが、「中国のサイトを検索すると、自分が知らない人と一緒に食事をしているディープフェイク画像が出る」と言っていました。デザイナー本人とご飯を食べるほど仲が良いのだから、この人が扱っているものは本物に違いない、と騙すためにフェイク画像を作ったのでしょう。

ここまで偽物作りや騙しのテクニックが発達し、自分で買ったもの以外は本物かどうか誰も分からないという状況になってしまうと、二次流通市場がシュリンクしていくことは避けられません。

スニーカー写真/書籍『スニーカー学』より
写真・イラスト/shutterstock

#1 世界経済・政治とリンクするスニーカーブーム
#3 ナイキの株価からみるスニーカー投資の未来

スニーカー学atmos創設者が振り返るシーンの栄枯盛衰
本明秀文
“スニーカーブームの生みの親”atmos創業者が明かす「転売ヤー」「スーパーコピー」との知られざる戦い30年史_4
2024年1月29日(月)発売
1700円(税抜)
192ページ
ISBN:978-4048974806
atmos創設者・本明秀文氏、電撃退任から早1年、『SHOELIFE』に続く2冊目の自著を刊行。「スニーカーブームはなぜ終わったのか?そして、これから起きること」をテーマに、25年以上にわたって原宿から界隈を見てきた本明氏の見解を、忖度なしで一冊にまとめました。ジェフ・ステイプル氏、コルク代表で編集者の佐渡島庸平氏、atmosディレクター小島奉文氏、スニーカーYouTuber CRD氏との対談も収録。“スニーカーブームのからくりは、あらゆる商売に応用できる”
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