がんゲノム医療の流れ
がん遺伝子パネル検査は、①患者の同意取得(インフォームドコンセント)、②検査用の検体作製、③遺伝子解析、④エキスパートパネルによる解析結果の検討、という流れで進められます。その後、検査結果は主治医を通じて患者に説明されます(図8-5)。
②の検体については、過去の手術や検査でがん組織を採取していれば、それを使用できることもあります。③の解析は外部の検査機関へ委託されます。④のエキスパートパネルを経て、結果が届くまでの時間はおよそ4週間から6週間ほどが見込まれます。
がん遺伝子パネル検査では、患者のゲノム配列のすべてを解析するのではなく、がんに関係する数十〜数百の遺伝子をピックアップしています。その対象として選ばれた遺伝子のセットが「パネル」です。
すでに保険診療で用いられるがん遺伝子パネルは「OncoGuide™NCCオンコパネルシステム」(以下、NCCオンコパネル)と「FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル」(F1CDx)、「FoundationOne®LiquidCDxがんゲノムプロファイル」(F1L)といったものがあり、今後も追加される予定です。NCCオンコパネルとF1CDxはがん組織由来のゲノムDNAを、F1Lは血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いる「DNAパネル」です。また、今後の臨床実装が予定されているがん遺伝子パネル検査には、融合遺伝子の検出に有利な「RNAパネル」を搭載したものもあります。
NCCオンコパネルは、国立がん研究センターが日本人のがんゲノム変異の特徴を踏まえた遺伝子パネル検査としてシスメックス社と共同開発したものです。対象となる124遺伝子は日本人のがんで多く変異が見られるもので、小児がんを含むさまざまな固形がんに起きている遺伝子の変異です。
F1CDx、F1Lは、中外製薬が販売を手掛けるもので、がんに関連した324遺伝子の変異について調べることができます。3つのパネルは基本的に、目的の遺伝子が対象になっているかどうかで使い分けられています。ただ、対象となる遺伝子の数には倍以上の差がありますが、そこから治療選択につながり得るエビデンスの高い遺伝子に絞ると、実質的な差がないものとみられています。
3つのパネルの特徴(使い分け)については次節で紹介しますが、いずれも以下に示す条件を満たした場合のみ、保険診療としての実施が可能となります(保険診療ではなく、先進医療等の枠組みでがん遺伝子パネル検査を受ける場合については、最後の節で触れます)。
保険診療で受ける場合
対象となる患者
保険診療の対象となるのは「標準治療がない、または、局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了(終了見込み)となった固形がんの患者」です。
どの段階で標準治療が終了(終了見込み)なのか、患者の全身状態が検査を受けられる状態かなどを担当医が見極めたうえで、がん遺伝子パネル検査を受けられるかどうか判断されます。なお、標準治療実施前の場合や血液がんの場合、全身状態が思わしくない場合は検査を受けることができません。
図表/書籍『「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る』より
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