水戸の六代目山口組系事務所の襲撃にも関与か
しかし、金容疑者が重傷を負わせたのは同じ絆會の幹部で、抗争相手ではない。原因は組織運営上のトラブルと一部メディアで報じられた。これでは殺害しても勲章にはならないのではないか。しかし、前出の幹部は「事件の背景には六代目山口組系組織への出戻り話が絡んでいる」と説明する。絆會はもともと六代目山口組から組を割って発足した、神戸山口組から分裂して結成された組織である。
「跡目にした者が(絆會の脱退して)六代目山口組、三代目弘道会へ行くことを決めており、それを止めようとした金沢(金容疑者)と話がもつれ、弾かれたようだ」(幹部)。
つまり、これは抗争が絡んだ事件だったのだ。金容疑者は2023年4月、神戸市長田区で起こった六代目山口組系の暴力団組長がラーメン店で射殺された事件でも、実行犯ではないかと噂になった。
殺害された組長は抗争相手の傘下組織の人物だったとはいえ、組には子分もおらず、ラーメン店店主として厨房に立つような人物。理由は不明だが、前出の幹部はある仮説を口にする。
「仮に神戸のラーメン店の件も金沢が犯人だとすれば、殺した理由としてひとつ考えられるのは、シャバにいる間に1人でも多く敵対組織の誰かを襲撃しようとしたのかもしれない。もともとの事件からしても長期の収監は間違いないからな」
幹部がそう話した数日後の2月4日、茨城県警が金容疑者に別の殺人容疑で逮捕状を取ったことが報じられた。2022年1月、水戸市にある六代目山口組系の事務所で幹部の頭を拳銃で撃ち殺害した事件に関与した疑いがあるという。真相はまだわからないが、金容疑者は一部メディアでは“ヒットマン”だったとも伝えられており、幹部の仮説が当たっている可能性はある。
これらの事件には共通して拳銃が使われている。金容疑者の逮捕劇には閃光弾が使われたことは前述したが、それは金容疑者が拳銃を所持している場合に備えてのことだった。しかし、逮捕時の所持品の中に拳銃はなかったという。
「拳銃で事件を起こしたヤクザ者は、護身用として拳銃をそのまま所持しているケースが多い。何かあればすぐにドンパチ撃ってくるから、こっちは受傷事故防止に防弾チョッキを着用し、いかに事故を起こさず逮捕できるかを考える」
警視庁で組織犯罪対策部にいた元刑事はそう話す。居所がわかってもすぐには踏み込まず、行動確認を行い、周辺の状況を把握し、最も確実で安全な方法を選び出すのだという。
「逃亡中に拳銃を隠し持っているヤクザは、すぐに取り出せるよう腰のベルトに挟んで背中に隠すのが常套手段だ。他にも腰ベルトにホルスターをつけたり、自作のガンホルダーを作って脇や股ぐらに隠すヤツもいる。
だから、外で逮捕する際に重要なのは声をかけた瞬間にどれだけ早く両手を抑えられるか、拘束できるかだ」(元刑事)