何度かあった良縁とのすれ違いの末に

もし母が町に引っ越したらどうなるだろう。弁当屋も惣菜屋もあるから、小銭を持って商店街に行けば、食事は何とでもなる。通いの病院も近いから、バスで往復1時間使って通院することもなくなる。

そう考えた時、もう一度商店街エリアを見たいと思った。東京に戻る飛行機が出るまで少し時間があると車を飛ばす。

見慣れた商店街はのんびりと買い物袋を下げた人たちが歩道を行き交っていた。

80代両親の家じまいと人生整理「本当は商店街のそばで暮らしたい」母の一言から最後は住みたい町に暮らす_2

歩き進むと、商店街のほど近くでマンションの建設工事が始まっていた。工事のお知らせを見るとそれは、威勢のいい営業さんに完売ですと告げられたマンションだった。

何と、こんないい場所だったのか。キャンセル住戸は無いのだろうかと営業さんにその場から問い合わせた。だが、「皆さんから同様のお問い合わせをたくさん頂いてるんですが、完売なんです」と、念を押すように言われた。

これまでも何度かあった良縁とのすれ違い。再び得がたい物件購入はタイミングを違えないことだ。

営業さんは、そこのチラシをご覧になったらどうか、みたいなことを言って電話を切った。

見ると建築確認書が書かれたボードの横にボックスがあり、チラシが入っていた。さっき営業さんが見ろと言っていたのはこれか。広げてみると、現地案内図が載っている。なんとここから近いようだ。

慌てて向かってみれば、地図の示す空き地にはすでにロープが張られていた。近くには高い建物もなく、建設地からの視界は開け、正面には弓を描くようになだらかな山が重なり合っている。これまで見た中で最高の立地ではないか。間違いなくここに、マンションが建つのだ。