『ボーはおそれている』はどんなストーリーなのか?

まず、『ボーはおそれている』のストーリーを紹介しておかないと、話が先に進まない。

どんな暴力映画よりも絶望的な“老い”と“死”を追体験させる一作。鬼才ギャスパー・ノエが提示した、ホラーよりも恐ろしい現実_3
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ただし、ここで述べるストーリーのあらすじは、あくまでも表面的に映像としてわれわれ観客が目にすることになるものを整理しただけで、実際にはそれが現実なのか、ボーの妄想の中の世界なのかはわからないというのが実際的なところだ。

ボーは髪の毛も薄くなった独身の中年男だが、仕事をしている風でもなく、母親名義のクレジットカードを持ち、スラム街のような治安の悪い都会のアパートの一室に住み、定期的に精神分析医にかかっている。
母親は不動産開発の大きな会社の会長で、子供のころのボーはそんな母と高級リゾート地で過ごすような恵まれた生活をおくっていたが、思春期の彼に対して、母は「あなたは父親同様セックスでエクスタシーに達すると死んでしまう血筋だ」と言われ、死への恐怖からいまだに一度もセックスをしていない。

ある日、誕生日を祝いにきなさい、と電話をしてきたばかりの母親が死んだという報せの電話がかかり、ボーは葬儀に出席するために家を出るものの、車にはねられて怪我をし、その車を運転していたグレイスの自宅で、思春期の娘の部屋をあてがわれ看護される。

しかし、グレイスの夫ロジャーを含め、一家は彼を軟禁状態に置こうとし、監視カメラで行動を監視していたため、ボーはなんとか逃げ出して森にさまよい込む。

森では演劇集団が不思議な生活スタイルで暮らしており、客人であるボーは、その芝居を見ながら自分の人生と重ね合わせ、別の人生の自分を夢想するようになる。

ようやく母親の邸宅に着いたときに既にその葬儀は終わっていたが、そこでボーは子どものころに出会った初恋の人で、今は母親の会社で働いていたエレインと再会する。そして、ボーは初めてのセックスをするが……。