「OJTが日本企業の強み」は過去の話
ここまで日本企業が欧米企業に比べ、いかにOFF JTに消極的かを見てきました。ではOJTには熱心なのでしょうか。
私が『日経ビジネス』の若手記者だった1980年代には、「日々の業務を通して、先輩社員が過去に積み重ねてきた知識や技術、体験を学ぶOJTが日本企業の強みだ」とよく言われました。それは今も変わっていないのでしょうか。
残念ながら「OJTが日本企業の強み」だったのは過去の話です。
日本企業のOJT実施率は、男性社員が50.7%とほぼ2社に1社の割合で、比較可能なOECD(経済協力開発機構)加盟23カ国中、18位と下位に低迷しています。女性社員への実施率は45.5%と男性社員よりも低く、同19位に沈んでいます。
OECD平均のOJT実施率は、男性社員が55.1%、女性社員が57.0%なので、日本企業の実施率はOECD平均より男性社員が4.4ポイント、女性社員が11.5ポイントも下回っている計算になります。女性社員への実施率の低さが際立ちます。
日本企業とは対照的に、OJT実施率が高いのはスウェーデンやフィンランド、アメリカの企業です。スウェーデンやフィンランドでは男性社員が70%近くに達し、女性社員は70%を超えています。アメリカも男性社員が60%台半ば、女性社員は70%近くに達しています。
本章の冒頭で日用品メーカーの鈴木さんが「うちは仕事に必要な知識や技術はOJTで学ぶのが中心でした」と指摘したように、日本企業の社員教育はOJTが主流ですが、そのOJTにしても実施率は世界標準を下回っているのです。
社員の能力不足に直面する日本企業は81%
ではなぜ日本企業のOJT実施率が世界では下位に落ち込んでしまったのでしょうか。経営者や上司は社員の能力や知識、技術に満足しているので、OJTを実施しなくてもいいと考えるようになったのでしょうか。
もちろんそんな喜ばしい状況ではまったくありません。
社員の能力不足に直面している日本企業の割合は何と81.0%と、比較可能なOECD22カ国の中でひときわ高い水準に達しています。8割を超える日本企業の経営者や上司は、社員の能力や知識、技術に満足しているどころか、社員は能力不足だと考えているのです。
これに対して欧米の主要先進国では、社員の能力不足に直面している企業の割合はドイツとアメリカが40.0%、フランスが21.0%、イギリスが12.0%です。
日本はなぜ社員の能力不足に直面している企業の割合がこれほど高いのでしょうか。
答えはすでに明らかです。
日本企業がOFF JTに使っているお金は、アメリカの企業の60分の1弱に過ぎません。OJTの実施率も、男性社員では比較可能なOECD加盟23カ国中18位、女性社員では同19位に沈んでいます。企業が社員の能力開発を図ろうとしなければ社員の能力は高まりません。こんなことはだれにとっても自明の理でしょう。
それなのに日本企業はなぜOFF JTにもっとお金をかけ、OJTの実施率を高めようとしないのでしょうか。その8割が社員の能力不足に直面しているのにもかかわらず、手を打とうとしない日本企業、とりわけ資金力のある大企業の経営は異様にも思えます。
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