プログラマーも生成AIに代替される

今ChatGPTを一番使っている職業は、プログラマーでしょう。これは元々、AIのようなコンピュータ技術を使いこなすことに長けた人がプログラマーに多いということもあるのですが、それだけChatGPTが見事にプログラムを書けてしまうということでもあります。

ChatGPTが出てきた直後のタイミングである2022年12月に、私は前述したAIについて勉強するサブゼミで、ChatGPTがプログラムを書く様子を学生に見せました。すると、学生の1人が「先生、もう人類終わりじゃないですか!?」と悲痛な叫びをあげていました。AIがプログラミングまでできてしまうならば、人は何もすることがなくなってしまうのではないかと危惧したようです。

しかも、4月から数か月間プログラミングを学んでいた彼らにとっては、「今までの僕たちの努力は何だったの?」といった徒労感を味わわされたかっこうになりました。学生たちには、申し訳ないことをしたと若干悔いています。

前のAIブームが始まった2016年頃、私も含めてみんなが予想できなかったのは、プログラマーの仕事がAIに代替される見込みが立つのが、こんなにも早いタイミングだったことです。これもプログラマーという職業がなくなるわけではなく、AIを使うとかなり効率が上がるということですが、その分プログラマーの頭数は少なくて済むようになります。

今でも、「GitHub Copilot」(ギットハブコパイロット)というGPTを利用したプログラム自動補完システムを使うと、作業をかなり効率化できます。56%ほど作業時間を短くできるという実験結果もあります。

なお、今のところ生成AIは、Webサイトや企業の情報システムをまるごと作成してくれるわけではありません。プログラム言語の書き方をまったく知らないプログラマーが活躍するようになるのは、まだ先の話でしょう。

営業は残りやすい職業

こうして見ていくと、クリエイター、事務職、専門職のいずれであっても、優れた人は生き残るけれど、中途半端にやっていると「機械との競争」に負けて、仕事を得るのが難しくなります。

つまり、卓越したアイディアやAIに負けないような表現力、AIにはないホスピタリティなどを持たない人は淘汰される可能性があるのです。ひどい話ですが、それが現実に起き得ることである限り、やはり私たちは危機感を持たざるを得ません。

逆に、ホワイトカラーの中で生成AIに脅かされにくいのは営業の仕事でしょう。ただし、BtoCの営業(消費者向けの営業)は、そもそもすでにITに置き換えられています。保険の外交員がまさにそうで、昔は親戚のおばさんが保険を売ってくるといったことがよくありました。

今は、対面での営業行為が好まれにくい時代です。それに、ネットで保険を買うことが普及してきて、各自がそれぞれ好きな保険に加入すればいいという風潮になっています。銀行の人から「投資信託を買いませんか」と勧められることがありますが、私個人が受けている営業はそれぐらいです。

一方で、BtoBの営業(企業向けの営業)は、未だに人同士の信頼関係のもとに取引をしています。納期に間に合わないなどのトラブルが生じた際には、発注元は発注先の誰か、つまり人間に責任を取って欲しいわけです。あるいは、接待をしてお酒を注いだり相手をほめちぎったりするのも、今のところロボットというわけにはいきません。

このように、人と人が対面で取引をすることが主流であるため、BtoBの営業は当面、目に見えて減ることはないでしょう。現在のAI技術の延長線上で考えたときに、営業は比較的残りやすいホワイトカラーの仕事であると言えそうです。

とは言え、発注先と発注元を自動でマッチングするようなAIのサービスも出てくるでしょう。そうしたサービスが増えていくことで、営業も多くの部分がAIに任せられるようになるはずです。もっとも、商慣習が根強く残り続けるため、AI任せになるにはかなりの時間がかかるものと考えられます。

これから生成AIに抹消されることになる職業が「デザイナー」「イラストレーター」「漫画家」「アニメーター」「作家」「脚本家」「作詞家」「作曲家」である理由_6
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販売員は生成AIに代替可能か?

衣料品店やビックカメラのような家電量販店に行くと、商品の説明をしてくれる販売員がいます。そういうお店の販売員は、生成AIの台頭でどうなるのでしょうか?

すでに、お店に行かずにアマゾンなどのECサイトで物を買うことが、消費者の間で一般化しています。また、そもそもお店自体の数も減少しているため、それに応じて販売員も減少しています。それとは別に、生成AIに販売員を減らす可能性はあるのでしょうか?

一時期は、ペッパーのようなロボットが販売員を務めるという期待もありました。それがうまくいかなかった理由は、かつてのAIは人とのコミュニケーションがそんなに得意ではなかったからです。

ところが今では、ペッパーにGPTを組み込む試みもなされています。それが実現すれば商品の説明もできて、お客さんの質問にも柔軟に答えられる人型ロボットが実現できるでしょう。そうしたら販売員という職業がすぐ消えてなくなる、という話ではありませんが、徐々に置き換わっていく可能性があります。

ただ、ロボットは物理的な機械であるため、1台1台製造にコストがかかります。ソフトウェアのAIとは違い、限界費用はゼロではないのです。メンテナンスも必要で、動かなくなった場合には修理の人を呼ぶ必要があります。そうであれば、人を雇った方が安上がりということになりかねないでしょう。

販売員に向いているのは、ロボットよりも言語生成AIを組み込んだバーチャルヒューマンだと思います。商品棚にディスプレイが設置してあり、そこに3Dグラフィックスの人が映っていて、商品に関する説明をしてくれるようなイメージです。

ただし、バーチャルヒューマンの場合、お客さんが「スマホケースはどこに売っていますか?」などと尋ねたときに、その場所に連れていくことができません。衣料品店で、倉庫から洋服を持ってきてお客さんに手渡すということもできないでしょう。空間的な移動を必要とするような接客ができないのが難点で、一長一短です。


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AI失業 生成AIは私たちの仕事をどう奪うのか?(SB新書)
井上智洋
これから生成AIに抹消されることになる職業が「デザイナー」「イラストレーター」「漫画家」「アニメーター」「作家」「脚本家」「作詞家」「作曲家」である理由_7
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990円
264ページ
ISBN:978-4815622374
人工知能(AI)で明暗が分かれる仕事、業界、日本社会…その未来を経済学者が大予測!

ChatGPTを代表格とする文章生成AI、ミッドジャーニーやステーブル・ディフュージョンに代表される画像生成AIなど、各ジャンルで高機能のAI技術が続々と誕生している今。あらゆるビジネスパーソンはそれらの概要を理解し、使いこなせなければ生き残れない時代が到来しているといえます。

さらには、最新のテクノロジーツールを自在に操れたうえで、自らのプレゼンスを高めるために、「己の付加価値をどうビジネスで生み出すか」が問われ始めてもいます。

そんななか、多くの働く人の頭にあることは、「テクノロジーによって自分の仕事が奪われるのではないか」「共生していくにしても、太刀打ちできる気がしない…」という危機感でしょう。

数年前は、「どんなに技術が進歩しても、ヒトにしかできない仕事やクリエイティビティはある」と信じて疑わなかった人々でさえ、この現実を目の前にして「いよいよ本格的に多くの人が失業するのでは?」と考えを一転させているはずです。本書は、かねてよりAIやメタバース、テクノロジーと雇用の関係性について、先見的な意見を述べてきた経済学者・井上氏が、この大変革期に「人工知能が私たちの雇用と経済に与える影響」についてやさしく語る1冊です。

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