事務職の雇用はますます減らされる

クリエイターほどではないにしても、一般的なホワイトカラーのような頭を使う仕事は、今後生成AIが発展していくことによって広範囲に渡って影響を受けるでしょう。中でも、事務職と専門職が雇用を脅かされます。

アメリカではITによって、すでに事務職の雇用が減らされています。それは先述した通り、コールセンターや旅行代理店のスタッフといった人たちです。日本では事務職の雇用が著しく減少しているわけではありません。

それでも2023年7月時点で、一般事務の有効求人倍率は、0.34倍でかなり低く抑えられています。3人に1人くらいしか採用されないことになるため、狭き門だと言えます。リーマンショック後の2009年から全体の有効求人倍率が長期的に上昇しているにもかかわらず、一般事務の有効求人倍率は低迷し続けているのです。

これまでもMicrosoft Officeのような便利なソフトウェアや経理システム、そのほかさまざまな情報システムの導入によって、事務職の仕事は効率化されてきました。近年では、「ロボティック・プロセス・オートメーション」(RPA)によって、定型的な事務作業の自動化が図られています。

そこへChatGPTのような言語生成AIが加わる形です。さらに、GPTの機能は「Microsoft365Copilot」という名前で、「Microsoft365」に組み込まれることになっています。「Copilot」(コパイロット)というのは副操縦士のことで、ここでは手助けをしてくれるといった意味合いがあります。Microsoft 365というのは、Microsoft Officeのサブスクリプションサービスです。

GPTがサポートしてくれることによって、私たちがエクセルやパワーポイントで資料などを作る作業はますます楽になるでしょう。ただし今でも、ChatGPTに「プラグイン」(機能を拡張するソフトウェア)を入れれば、簡単にグラフを描かせることができますし、パワーポイントのスライドを作らせることもできます。

そのため今後は、事務職の人に書類作成を依頼する機会が減っていくでしょう。たとえば、GPTに限らずですが、言語生成AIがメールソフトに組み込まれるようになれば、メールで依頼された書類の作成は一瞬で済むようになります。

これまで営業職の人は、「請求書を作成して送付してください」というメールが届けば、自分で作成するか、事務職の人に作成してもらう必要がありました。

将来的にはメールが届いた瞬間に、AIが「請求書を作成し、○○さんへの返信メールを書きました。これでよろしいでしょうか?」と知らせてくれて、私たちは確認してOKボタンを押すだけで済むようになります。書類作成という業務の負担が劇的に軽くなり、AIが作成した書類の確認と若干の修正くらいで仕事が完了するようになるのです。

書類作成だけが事務職の仕事ではないため、職業自体が消滅するわけではありません。ただ、雇用が著しく減少すればそれだけでも深刻な問題です。一般事務の有効求人倍率は、現在の0・34倍からさらに大きく低下する可能性が出てきたのです。

これから生成AIに抹消されることになる職業が「デザイナー」「イラストレーター」「漫画家」「アニメーター」「作家」「脚本家」「作詞家」「作曲家」である理由_3

専門職も人工知能に脅かされる未来

すでに述べた通りですが、アメリカでAIによって雇用が減っていた職業というのは、証券アナリスト、保険の外交員、資産運用アドバイザーといった金融系の専門職でした。それに、「パラリーガル」(弁護士助手)も加えられるでしょう。

パラリーガルという職業は、1つには膨大な書類やテキストデータの中から、裁判に必要な部分だけを抽出してまとめるような作業を担います。そういう作業はAIで代替できるため、アメリカではパラリーガルの仕事も減ってきています。

これは日本の話ですが、不倫に関する民事裁判があれば、膨大なメールの中から不倫の証拠を抽出する作業が必要となる場合があります。人間が行ったら長い時間がかかりますが、テキストを解析するAIであれば短時間で終わらせられます。これまでも、簡単なテキストデータの処理程度であればAIで可能だったのです。

こうして、金融系の専門職とパラリーガルに限っては、アメリカではすでにAIに雇用が減らされました。しかし、ChatGPTのような言語生成AIの出現によって、会計士、税理士、弁護士、司法書士、ジャーナリスト、研究者、教員、コンサルタントといったあらゆる専門職の雇用が脅かされることになりました。

こういったスペシャリストは、専門的な知識を人に伝えたり、それを活かして何かを作成したりすることを主な生業にしています。税理士であれば、税務に関する知識を人に教えたり、確定申告書を作成したりします。

しかし、これからは言語生成AIがそうした業務を肩代わりできるでしょう。こういった職業で生き残りを図るには、顧客が抱えている疑問や不安を察知し、かゆいところに手が届くようなホスピタリティを発揮することで、AIに対する優位性を保っていく必要があります。