「つい1週間くらい前、4台の自衛隊のジープが届いた」

タイの港に運ばれた自衛隊車両は、その後どのようなルートを辿るのだろうか。自動車の密輸に関わったことがあるというタイ人男性はこう明かす。

「タイでは2019年に、海外からの自動車輸入を原則禁止している省令があるため、車ではなく部品として運ばれてくる。運び入れた部品は工場でこっそりと組み立てられ、国内外に転売されていきます。

またフリーゾーン(FZ)と呼ばれる経済特区を使って密輸をするケースもあります。FZは外国向け貨物の保管倉庫としての役割があり、関税が免除されている地区。表向きは外国向けの貨物として、一度タイのFZに運びこまれるが、実際にはFZの内部でコンテナを開け、自衛隊車両の部品を組み立てて海外に密売したり、一部はタイ国内でもを売り捌いたりしています。こうした方法で車を転売してきて、これまで税関や警察に見つかったことは一度もありません」

自衛隊車両だけでなく多くの国産自動車も「部品」として運ばれる
自衛隊車両だけでなく多くの国産自動車も「部品」として運ばれる

そうした自動車の密輸拠点の一つとなっているのがミャンマーとの国境沿いにあるタイ北西部の街・メソトだ。国境を流れる幅100メールほどの川の対岸は、今も内戦状態が続くミャンマーである。

密輸の拠点となっているタイ西部の街メソト
密輸の拠点となっているタイ西部の街メソト

そのメソトで、日本車の密輸を取り仕切っているタイ人がいるとの情報を掴み、本人を直撃すると、平然とした様子でこう答えた。

「つい1週間くらい前、4台の自衛隊のジープが届いた」

そして、筆者にスマホの画面に出した写真を見せながら、こう続けた。

「これがその自衛隊の車だ。他にいくつもある」

このタイ人の話によれば、やはりバラバラな状態で届いた自衛隊車両をFZ内で完成車に組み立てていた。3台はミャンマー軍の関係者に売ったと証言。車両は人のいない川岸に停泊させた小舟に積み込み、対岸のミャンマー軍関係者に引き渡すそうだ。明らかな密輸である。ちなみに残りの1台はエンジンが切断されていたためミャンマー軍には売れなかったといい、そうした車はタイ国内で売り捌いたことを匂わせたのだった。

「自衛隊車両はミャンマー軍にも流れる」と証言した密輸業者
「自衛隊車両はミャンマー軍にも流れる」と証言した密輸業者

「自衛隊車両はミャンマー軍の幹部らが乗ることもあれば、ミャンマー国内で転売されることもある」(同前)

日本政府はミャンマーに対し人道支援をする裏で、結果的には流出した自衛隊車両がミャンマー国軍や幹部を利している実態があるのだ。果たして今回、防衛省は調査に手を尽くしたのか。全容解明なくして再発防止はできないだろう。昨年9月の会見で「大変重く受け止めている」と語っていた木原防衛相だが、結局、その場しのぎの発言だったと言わざるを得ない。


取材・文/甚野博則
撮影/ Soichiro Koriyama