「俺の人生、なんやったのかな」

2019年10月22日。安否確認のためAさんに電話をかけた。

「風呂とかは介護の車に送ってもらっている。ワシという人間は、なんでこんなに揉めごとが多い一生を送らんとならんのか。しかし、今のこんなに安定した気持ちは初めてやな」

言葉に力がなく、何を言っているのか聞き取れないほど、ろれつが回っていなかった。その後、何度か連絡を入れたが通じることはなかった。施設に入ったのだとわたしは思った。

事件から20年の節目である2021年6月。古い付き合いの写真週刊誌からAさんの取材を依頼された。連絡が取れない旨を編集者に説明すると、「なんでもいいからデータが欲しい」と言われ、Aさん宅の墓や、奥さんが入居していた施設などをレクチャーした。当時、取材協力してくれた方々に電話を入れたが、Aさんの行方は判明しなかった。

幼い宅間守・元死刑囚を抱く実父Aさん
幼い宅間守・元死刑囚を抱く実父Aさん

 「グーグルアースで見ると、宅間守の自宅が更地になっている」

カメラマンから情報が入った。謄本から、土地は親族が相続していることがわかった。大阪の記者が取材に当たると、親族が特別に取材を受けてくれた。

Aさんは2020年4月に肺ガンで他界していた。享年88歳。宅間家の土地を更地にして、墓じまいも行っていた。親族は、守というモンスターの影を抹消したかったのだろう、とわたしは思う。

「俺の人生、なんやったのかな」

親族に語った、Aさんの最期の言葉だった。

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『前略、殺人者たち 週刊誌事件記者の取材ノート』(小林俊之、ミリオン出版)
小林俊之 
2015/11/9
1,650円
191ページ
ISBN:978-4813022640
殺人現場を東へ西へ
事件一筋30余年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。
報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔をいま明かす!

大阪教育大附属池田小事件:宅間守
秋葉原通り魔事件:加藤智大
松山ホステス殺人事件:福田和子
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