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テレビがスポーツウォッシングを
絶対に報道しない理由

――本間 龍氏に訊く

本間龍(ほんま・りゅう)
1962年生まれ。著述家。1989年に博報堂入社。2006年に退社するまで一貫して営業を担当。広告が政治や社会に与える影響、メディアとの癒着について追及。近年は憲法改正の国民投票に与える影響力について調べ、発表している。主な著書に『東京五輪の大罪―政府・電通・メディア・IOC』(ちくま新書)、『ブラックボランティア』(角川新書)、『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット)、『広告が憲法を殺す日─国民投票とプロパガンダCM』(集英社新書・共著)、ほか多数。

2021年の東京オリンピックを機に注目が集まり、日本でもようやく議論され始めたスポーツウォッシングは、2022年のサッカーワールドカップ・カタール大会でさらに注目を集める用語になった。しかし、活字メディアで「スポーツウォッシング」という用語が散見されるようになったのとは対照的に、テレビでは依然としてこの言葉を耳にすることがない。

なぜ、放送メディアはスポーツウォッシングに対して沈黙を守り続けるのか。広告代理店博報堂出身の著述家・本間龍氏に「テレビ業界のロジック」について訊いた。

テレビにとってスポーツイベントは最後の聖域…スポーツウォッシングがいまだ大きく報じられない理由とは_1
写真提供/清水有高
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なぜテレビはスポーツウォッシングを報じないのか

2022年のサッカーワールドカップ・カタール大会以降、オンラインや紙媒体を問わず「スポーツウォッシング」という文字を活字メディアで目にする機会が増えた。

オンラインメディア記事はGoogleなどで検索すれば即座に多数ヒットするため、ひとまずここでの例示は控えるが、たとえば新聞記事には以下のような例がある。

〈不都合を覆い隠すな「スポーツウオッシング」に警鐘サッカーW杯〉(「毎日新聞」2022年11月26日付)

〈浪速風/スポーツウォッシング〉(「産経新聞」2022年12月23日付)

〈ゴルフやサッカー投資への「ウォッシング」批判サウジ閣僚が反論〉(「朝日新聞」2023年1月20日付)等々……。

とはいえ、これはあくまでも活字情報に限った話だ。映像情報の場合、スポーツウォッシングについてテレビなどの放送メディアで解説・議論されるような機会はまず目にすることがない。

東京オリンピック、サッカーワールドカップの実況中継や関連スポーツニュースで、スポーツウォッシングについて言及した番組はおそらく皆無に近かったのではないか。地上波・BS・CS、あるいはネット番組などの関連番組をしらみつぶしにチェックしたわけではないので拙速な断言はできないけれども、少なくとも自分が目にした範囲では、「スポーツウォッシング」という言葉をこれらの大会中継やニュース番組などで耳にしたことは一度もなかった。

2022年の北京冬季オリンピック開催時期には、時事トピックを扱う番組でコメンテーターが「スポーツウォッシング」という言葉を使っていたのを見かけたことがあったので、映像メディアがまったく触れないようにしているわけではないのかもしれない。

とはいえ、オリンピックや各種競技の中継番組、スポーツニュースでは、「スポーツウォッシング」という言葉はまったく耳にする機会がない。

サッカーワールドカップ・カタール大会の開催前には、ホスト国カタールの国営放送局・アルジャジーラも大会に対する批判が高まっていることを、隠すことなく取り上げている*1。だが、日本のスポーツニュースを観ているだけだと、まるでそんなものは最初からこの世に存在していないかのように錯覚してしまうほどだった。テレビのスポーツ番組は、スポーツウォッシングという問題にとって大きな当事者のひとりであるはずなのに、なぜ、徹底して見て見ぬ振りを続けるいびつな状況が続くのか。