一人っ子の多さ、育休の取りにくさ…日本特有の問題点

一方で、日本で「childfree」の選択をする女性たちは増えているのだろうか。

「複数の調査結果を見ても、確かに日本でも増えています。欧米よりはるかに男性の育児参加が進んでいないことも要因ですが、日本では職場で産休・育休を取るタイミングを見計らわなければいけないという雰囲気があったり、妊活についてあまり理解が進んでいなかったりしています。

そのため企業でフルタイム勤務で働く女性のなかには、周りに言い出せない、あるいは迷惑をかけると気を遣い、出産・育児のハードルが高いと感じる人も少なくありません。

特に10代、20代の若者層に『childfree』の選択をする女性の割合が増えていると実感しますが、それは一人っ子家庭が増えたことも一因になっていると考えています。

ある研究所の調査でも、一人っ子ほど将来『子どもが欲しい』と考える割合が低い様子が見てとれます。一人遊びに慣れていますし、妹や弟がいないと年下の家族と密にかかわる経験がないので、将来、赤ん坊と接する自分のイメージが湧きにくいという人が多いのでしょう」

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国の第三者機関(国立社会保障・人口問題研究所)の最新の出生動向基本調査(2021年実施)を見ると、日本における一人っ子の割合は2005年に1割を超え、近年では約2割に達している。そのうえ、若年者の未婚割合も増えているため、日本の合計特殊出生率(1.26)はフランスやイギリス、スウェーデン(それぞれ1.6~1.8台)などに比べて格段に低い。

それなのに、日本ではまだまだ“意図的に子どもを持たない”ことを公言できるような空気感ではないと牛窪氏は指摘する。

「やはり日本では今でも、“結婚”と“子どもを持つこと”がセットで考えられている節があります。いわゆるロマンティック・ラブ・イデオロギー(恋愛・結婚・出産の三位一体化)が根強いんですね。

ですから、結婚はしたいけど子どもはほしくないと考える人も『結婚前にchildfreeを表明してしまうと、結婚相手として選ばれないかもしれない』という恐れがあるのではないでしょうか。そのためchildfreeの考えを、胸に秘めて表に出さない男女が多いように思えます」

日本人の国民性として、“急激な変化を嫌う”という特徴があるのは通説だ。新しい価値観は変化の象徴でもあるため、もし「childfree」の考えを持っていた女性がいたとしても、なかなか堂々と宣言できない雰囲気が、日本全体を包み込んでいる。

ただ、公言している女性がまだ少ないだけで、水面下では日本でも「childfree」思想が広まってきているということなのかもしれない。

取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)