一般的に、インフレが過熱した場合、中央銀行は金利を引き上げるのが定石です。これは、金利が上がると、高い金利で資金を調達しなければならなくなった金融機関が企業や個人に貸し出す金利も引き上げるからです。

お金が借りにくくなると、企業が借金して設備投資をするのをやめたり、個人がローンを組んで家や車を買うのをやめたりします。すると景気が下向きになり、物価が下がる方向に進むわけです。

では、今後の日本で、インフレに伴って金利が引き上げられることはあるのでしょうか?

私は、金利引き上げにはあまり期待できないと思っています。というのも、いまの日本の政府には「金利を上げたくない理由」があるからです。

まず、金利が上がると借金を返済する際の金利負担が重くなります。いま国には1270兆円もの借金があり、借金なしではやっていけない状況です。

金利が上がると、莫大な借金に対する金利も上がってしまい大変なことになるので、金利上昇はなんとかして避けたいはずです。

一方で、インフレになれば物価上昇に伴って自然に税収がアップするので、借金の負担は目減りします。つまり、国が莫大な借金を返済するためには、インフレが続く中で金利を低いままにしておくのが得策だということになります。

しかし、預金金利がまったく上がらず、物やサービスの値段が上がるということは、私たちにとっては非常に不利な話です。このような状況を「金融抑圧」といいますが、誰が抑圧されているのかというと、私たち国民が抑圧されているわけです。

インフレでお金の価値が下落して国の借金の負担が減ることは、「インフレ税」と呼ばれます。

インフレが起きても、私たちはさほど騒ぎません。フランスなどでは暴動が起きたりしていますが、そもそも日本では物価が上がるという経験をしたことがない人が多く、デモが起きる気配はありません。

これが、もし消費税の話なら、1%でも上がるとなれば大騒ぎになるはずですから、政府にとって「インフレ税」は恩恵が非常に大きいといえるでしょう。

物価の上昇に、賃金も金利も追いつかないというのは、私たち国民にとって非常に過酷な状況なのです。

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老後の年金も、
インフレ以上には増えない

もう1つ知っておかなければならないのは、インフレによって私たちが将来受け取る年金額がどのような影響を受けるかについてです。

物価が上昇した場合、年金額が同じくらい引き上げられなければ、実質的に年金の価値は減ってしまうことになります。

では、実際はどうなるのでしょうか?

年金額は毎年、賃金や物価の変動率を基準に改定されています。現役世代の賃金や物価が上昇すれば、ある程度は年金額もアップするのです。

しかし2004年の年金制度改正では、物価や賃金の上昇をそのまま年金額に反映しない「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されています。年金制度を維持することを目的に導入されたこの仕組みがあるため、インフレになっても、物価上昇をカバーするほどには、年金額は上がりません。

つまり、年金もインフレには勝てないことが確定しているわけです。


図/書籍より
写真/shutterstock

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