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片側は譲るが、席は譲らない──
「優先席」という悪しきルール

エスカレーターではルールが変わっても、急ぐ人々のためにいまだに右側もしくは左側を自ずと譲る人々が減らない理由について述べた。しかしその一方で、電車内の席は譲らない人々が多い。これはなぜなのか。

2023年初夏、駐日ジョージア大使のSNSヘの投稿が話題となった。彼は自分のアカウントに、電車に揺られながら都心に向かう姿を公開した。その画像は、ラフな格好で席に腰掛け、読書をしている姿だった。電車は空いているようだったが、彼が座っていたのは「優先席」だった。

この投稿に対し「どうして優先席に座っているんですか?」「優先席座るなよ」などの批判的コメントが寄せられた。

それらに対し、ジョージア大使は、「空いている優先席に座ることには問題ありません」「理屈のない不要な圧力は、生きづらい社会につながる。必要とする人が来た時に、率先して譲る精神が必要である」とコメントした。

その後、SNS上には大使を支持するコメントに溢れることとなった。「優先であって専用じゃないのだから、必要とされる方がいたら譲れば問題ない」「空いているなら座っても問題ない。逆に混んでいるときには座らない方が迷惑」など。

だが、批判的なコメントにも耳をかたむけるべきだろう。「自分は優先席を必要とする当事者だが、すでに座っている人に対して譲ってくださいと言い難いから空けておいてほしい」「先に座っている人がいたら、優先席が必要な人でも、譲ってもらえないだろうと諦めてしまう」など。

これらの意見も理解できる。見た目では分かりづらい障がいがある人や、さまざまな理由でヘルプマークをつけている人など、座る必要があっても自分から言えない人がたくさんいるだろう。

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私の見解を述べよう。「優先席」だが、1車両に3〜6人分である。だが乗客の中には、座る必要がある人がもっと多くいるだろう。だからあれは、鉄道会社の免罪符みたいなもの、いわゆる「やってます感」を出しているだけのものではないかと思っていた。

しかも問題なのは、乗客はそういう席があるからいいやとばかり、空いた席に座ったとたん居眠りを決め込むとか、スマホとイヤホンで他の人々への関心をシャットアウトしている。つまり優先席は、乗客が、困っている人々への気遣いや思いやりをもたないことを許す口実になっているのだ。

優先席もルールのひとつとすれば、それは他者への関心や想像力を失わせるルールであり、悪しきルールの典型である。むしろ優先席をなくし、困っている人に気づいたら進んで席を譲ることができる他者への関心を培うことの方が大事だと思う。大使も「(座ることを)必要とする人が来たら率先して譲る」という姿勢こそが社会全体に必要だという趣旨のことを語っている。私も至極同感である。

一方で、席を譲りたくても行動に移せないという人もいる。恥ずかしがりの人、また、高齢者だと思って席を譲ったらキリッと断られたなどの経験がある人々である。社会心理学に「評価懸念」というのがある。自分が助けに行って何もなかったとしたら皆の前で恥をかくことを恐れるがゆえに助けに行くことを躊躇するということである。だから譲られた人も、たとえ必要なかったにもせよ、「ありがとう」の一言を添えて優しく断ってほしい。

条例を作ってもエスカレーターの片側空けがなくならない理由、そして優先席ルールの弊害について述べた。いずれも利己主義と他者への無関心が原因となっている。ならば、それらと真逆の事情がはたらくならば、ルールは自ずと変わりやすい、ということになる。

実は、その真逆の事情がはたらいているがゆえに、男性の小用のたし方が変化しているといえるのである。