「記憶物」が登録される意義

こうしたことは十分に想定できるため、広島市や各種の平和団体はかかる事態に際してどういったコメントを出すのか、いまから準備しておく責任があるだろう。

ただ、それでもなお、「広島原爆の視覚的資料」の「世界の記憶」への推薦は大きな意味を持っている。

原爆ドーム
原爆ドーム

これまで広島における原爆という悲劇の記憶は原爆ドームというひとつの「構造物」を中心に承継されてきた。しかし、今回の推薦で実際の被爆者の写真が多く含まれた「記憶物」が登録に向かう可能性が生まれている。登録によって国際社会が摩擦に向かうのでなく、人類の悲劇の記憶として「ヒロシマ」を覚えておこうという方向に進むことを期待したい。

文/井出明 写真/shutterstock