36年も前に出版された傑作小説「国語入試問題必勝法」でも槍玉に上げられていた

すでに思い切りディスってしまったので、入試問題として実際に使われた典型的な難解文章の具体例を挙げることは憚られる。
なのでその代わりに、作家の清水義範氏が1987年に発表した傑作小説「国語入試問題必勝法」から以下を引用しよう。

清水義範の名著「国語入試問題必勝法」
清水義範の名著「国語入試問題必勝法」

⚫️次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
 積極的な停滞というものがあるなら、消極的な破壊というものもあるだろうと人は言うかもしれない。なるほどそれはアイロニーである。濃密な気配にかかわる信念の自浄というものが、時として透明な悪意を持つことがあるということは万人の知るところである。

 エヒエルト・シャフナーはその窮極のテーゼに等身大の思考を持ち込んでセンメイな構図を示した。人間は道具の製作及び使用によって自己を自然と結びつけ、それによってひとは敗北主義から独断家になるわけである。粗密な気質の差によるものである。すなわちその経験に関して(     )を蓄積することができないのは、いうまでもない。リアリズムが客観的、論理的であるとすれば、比喩的表現は直観的で、飛躍的、超論理的、(    )であるように見ることも可能である。神は集団の象徴であり、宗教とは集団の自己スウハイにほかならないというE・デュルケームの議論はこのことによって証明されているといってもよいだろう。

いずれも清水義範・著「国語入試問題必勝法」(講談社文庫)より引用

「国語入試問題必勝法」は、パスティーシュ(作風模倣)の名手である清水義範氏が、国語教育と受験技術に対する鋭い諷刺を込めて書いた短編小説。
上で引用した文章は実在の論説文ではなく、清水氏がこの小説のために作った架空の難解論説文なのだが、さすがの名人芸で、とてもよくできている。いかにも国語入試問題に出てきそうな、わけのわからない文章である。
小説の主人公である受験生の一郎は、これらの文章を前に頭をくらくらさせたり、絶望的な気分になったりするのだ。

photo AC
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「国語入試問題必勝法」が発表された1987年、まさに受験生だった僕はこの小説を読んで爆笑しつつ、登場人物の家庭教師が一郎に示した、国語の難問を解くための似非テクニックに、結構真剣に共感したりしたものだ。

そして現在、我が子が塾の宿題として家に持ち帰り、ウンウン唸り苦しみながら解こうとしている国語の問題集を見ていると、あの頃と何も変わってないのだな、かわいそうにと思ってしまう。