統計学者、そして教育者

ナイチンゲールは、統計学者としても大きな功績を残した。軍隊において、衛生的な環境の維持がいかに重要であり、不衛生がいかに多くの生命を奪うかを政府に説くため、緻密な統計解析を行ったのである。

多種多様な自作のグラフを用いた彼女の資料は、当時としては画期的で、圧倒的な説得力があった。1859年、ナイチンゲールはイギリス王立統計学会のメンバーに選ばれるという、女性として初めての快挙を成し遂げた。

また、ナイチンゲールはロンドンに世界初の看護師養成学校を開いたことでも有名だ。長らく、身分の低い召使いとして扱われていた看護師という存在を、適切な訓練を経た正式な専門職として確立したのも彼女の偉大な功績である。

『看護覚え書』の中でナイチンゲールは、後世まで残る有名な理論を書いている。

「自分がそこにいるときにすることを、自分が不在のときにも行われるよう管理する方法を知らないと、看護の結果は台無しになったり完全に逆効果になったりするだろう」(著者訳)

ナイチンゲールは、自分が不在のときも同じクオリティの業務が行われるよう情報を管理し、組織として機能を高めることの大切さを説いた。

組織の脆弱さをもたらすリーダーの口癖とは。ナイチンゲールが整えた看護体制の基礎と現代に通じる理想的リーダー論_2
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現代社会でも、「自分がいないと回らない」が口癖のリーダーがいるかもしれないが、ある特定の人材に依存する組織は脆弱で、非効率である。そうした組織に対し、リーダーがリスクマネジメントの観点から改善の必要性を感じるならともかく、誇らしく思うとしたら筋違いだ。ナイチンゲールの言葉は、今なおあらゆる組織人の心に響く重要なマネジメント論といえるだろう。

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文/山本健人
写真/shutterstock

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組織の脆弱さをもたらすリーダーの口癖とは。ナイチンゲールが整えた看護体制の基礎と現代に通じる理想的リーダー論_3
2023/9/12
¥1,515 Kindle版 (電子書籍)
391ページ
ISBN:978-4478118016
医学は、人体の構造・機能の美しさを明らかにし、病気の成り立ちを理解し、多くの病気にひそむ謎を解いていくことで、膨大な数の治療手段を生み出してきた。

はるか昔、呪術やまじないと一体化していた「病気を治す」という営みは、先人たちが一歩ずつ知見を積み重ねていくなかで、古代ギリシャの「医学の父」ヒポクラテスによってサイエンスしての歩みを始める。

医学は、サイエンスであるからこそ、体に起きた病気をサイエンスの言葉で説明し、その治療手段もまた、サイエンスによって生み出すことができる。

また、人体は本当によくできている。

だがこれらの現象は、自然界で普遍的に起こりうる化学反応の連鎖によるものだ。超自然的な力を信じたくなるほどよくできたしくみが、実は化学や物理の法則によって説明できる。

本書は、外科医けいゆうとして、ブログ累計1200万PV超、twitter(外科医けいゆう)フォロワー10万人超のフォロワーを持つ著者が、医学5000年の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する。

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