アルバムの発売中止、裁判を経て、全英チャート1位へ
1977年10月28日。セックス・ピストルズのデビューアルバム『勝手にしやがれ!!(Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols)』がリリース。
脅迫状や嫌がらせの手紙のように、新聞の切り抜き文字を使った派手なアルバムジャケットは、ジェイミー・リードによるデザイン。自らの店舗網を持っていたヴァージンは、各店でこのインパクトあるレコードを宣伝するためにウインドーに大きな黄色のポスターを貼ることにした。
案の定すぐにクレームが入り、店長が猥褻広告条例で逮捕。ポスターの撤去だけでなくアルバムの発売中止を脅される。ブランソンも昔同じようなことで逮捕されたことがあったので、その時の弁護士に連絡した。
「警察は“Bollocks”(睾丸)という言葉を使用してはならないって言ってるんだ」
“Bollocks”の正確な意味を定義付けられる人間が必要だった。そこでブランソンは大学の言語学の教授を探すことにした。そしてノッティンガム大学のジェームズ・キングズリー教授が見つかった。
「それは酷い。“Bollocks”は18世紀の“牧師”のあだ名だよ。だいたい牧師ってのは説教の中でナンセンスなことばかり言うから、だんだん“ゴミ”という意味に変化していったのさ」
裁判で教授は“Bollocks”は睾丸とは無関係であること。牧師やゴミであることを丁寧に説明してくれた。検察側は聖職者の心証を害するのではないかと尋ねた。
教授はセーターを脱ぐと、その下に聖職者が着るシャツを見せた。教授は実はキングズリー“牧師”としても有名だったのだ。裁判長は言い放った。「本件は棄却にふす」
ピストルズとの一連の出来事は、ヴァージンに着せられた古臭いヒッピーのイメージを一掃したかったブランソンの思惑通りになった。悪評判は有形資産。
再びヴァージンの知名度が向上するだけでなく、パンクやニューウェーブのバンドが契約する「カッコいいレコード会社」の象徴になったのだ。新しい世代の若者たちが続々とアプローチをかけてきた。
セックス・ピストルズは全国的な“イベント”だった。民衆からの抗議に接しながら生活するのは、ワクワクするほど楽しかった。オスカー・ワイルドがこう書いている。「あれこれ言われるよりもっと悪い唯一のことは、何も言われなくなることである」ってね。(リチャード・ブランソン)
セックス・ピストルズのファーストにして唯一のアルバム『勝手にしやがれ!!』は、全英チャート1位を獲得した。
文・構成/TAP the POP
●引用・参考文献『ヴァージン―僕は世界を変えていく』(リチャード・ブランソン著/植山秀一郎訳)