入所費用は必要経費

もうひとつ、BSテレ東の番組を観て引っかかっていたことがある。

親がB氏にいくら支払ったのか、一切言及されていなかった点だ。裁判に提出された料金表をみると、「入学時寄付金」の下限が50万円で、さらに「入寮時寄付金」の下限が30万円。月々の寮費が12万円で食費が5万円、プラス月々の「サポート費」という項目があってこれは「月3万~10万円」とある。

ひきこもっている本人を連れ出しにいくための出張費は5万円、その際の車両費は1万5000円、交通費と宿泊費は実費となっている。ここまで計約100万~120万円はかかる計算だ。

これは番組でも伝えるべき情報だと思う。
B氏はこの金額について尋ねるとこう説明した。

「一般のフリースクールの相場プラス、それだけではやっていけないので、サポート費をいただいている」

この金額は最低限のもので、むしろ良心的だとB氏は言う。

「施設を続けていくのに必要な経費。僕なんかもう2年間給料もらってない。もらってないって記事に書いといてください」

「(経済的な事情から)お金をとっていない家もある。だが、そうした部分についてはいわれない」

こうした発言の真意について「稼がないと人は助けられない。助成金などをあてにするのではなく、(蓄えなどの)余力の中でお金を払えない人を助けるという信念があるのだ」とも話した。

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とはいえ支払った費用に見合う結果が出ないまま、入所した本人が脱走した場合、その責任はスクール側にもあるはずだ。だがB氏のこれまでの言い方では脱走した生徒の側に問題があり、今回はその中に扇動役がいたという。

「いまままでよくあるケースは脱走して交番に行く。そこで電話貸してくれといって自宅にかける。その結果、電話を受けた親から僕らに連絡がきて『迎えに行ってください』となる。親から呼ばれて、行って本人と話し合う。でも僕らが拉致して連れ戻すことはない」

「本人が家に帰してくださいって言うから、弁護士が救出をトライしても、親の側からすれば『なに(余計なことを)やってくれてるんだ』ということで帰宅を拒む。結局解決しない。弁護士は脱走までさせて、何がしたかったんですか、となる。本人がそれでハッピーならハッピー。僕らを訴えるにしても、頼んでいるのは自分たちの家族なんだよと。うちの保護者会はこれについて、みなさん正しい認識をもたれている」

かつて多くのメディアに好意的に紹介され、B氏は自分の「支援」に自信を持ったのだと思う。番組側の演出や期待に乗せられてしまった側面もあるのかもしれない。だからメディアの批判は手のひら返しにも思え、到底受け入れられないのだろう。

取材の最後にB氏は、こんな風にいら立ちをはき出した。

「僕らへの批判記事ね。悪いけどあいつら(記者やライター)が書いて出せば出すほど(子どもをスクールに入れたいとの)問い合わせが多くなるんですよ。『先生、いろいろ書かれているけど、スクールを信頼している家族の気持ちはなぜ、書いてないんですか』『強引なやり方と書いてあったんですけど、うちの子どもを強引にでも連れて行ってくれるんですか』といってくる。

いたたまれないのは、卒業してまじめになっている人や、スクールを良く思っている人。そういう人からすると、記事は誹謗中傷にみえる。本人たちは『自分が生き証人だから、取材があれば話しますよ』と。あたかも僕が悪者みたいに書かれることで、心を痛めている人たちには、申し訳ないと思います」

今回の番組についてテレビ東京に問い合わせたところ、次のような回答があった。

「個々の番組の制作過程やガイドラインについてはお答えしておりませんが、すべての番組制作において、差別につながる表現をしないように注意したり、事実を正確・公平に伝えることなど様々な観点に配慮して確認しています」