「上から目線は中年ひきこもりの特徴」というナレーション

この場面は説得するというより、入所する以外の選択肢をふさぎ、追いつめたといっていいだろう。

長男が施設に到着すると部屋の窓には鉄格子がある。長男が思わず発した「刑務所みたいじゃないですか」という言葉に対しては、「上から目線は中年ひきこもりの特徴」というナレーションがかぶさる。

ひきこもりの人のための施設に鉄格子があるのは異様だし、「刑務所みたい」と思うのはごく当たり前の感想にすぎないと思うが、番組はそれを「上から目線」と決めつけていた。

民放のバラエティー番組でもあり、ある程度の事前の打ち合わせ、シナリオなどがあるのだろうとは思う。

だが、15年も部屋にひきこもっていた男性が、いきなり家にやってきた男に説教され、着の身着のまま施設に連れ出されたり、赤の他人に命じられて「家族会議」を聞かされたりする光景は見るに堪えない。そして、その施設に入るためにどのくらいの費用がかかるのかについては一言も触れていない。

ひきこもりに苦しむ人を「親に迷惑をかける困った人」と放送するTVの都合…メディアが本当に伝えるべき「自立支援」の実態とは_2

繰り返すがこれが放送されたのは2021年1月。2016年にはひきこもりの人の部屋のドアをB氏が壊す場面を放送したバラエティ番組を識者らが批判し、会見を行ったことがある。

それから5年も経っている。ひきこもりに苦しむ人を「親に迷惑をかける困った人」であるかのように放送してしまうことに問題はないのだろうか。

東京のキー局に「熱血救済人」として報じられることの宣伝効果も小さくないだろう。

私は19年6月、東京都大田区であったKHJ全国ひきこもり家族会連合会の総会を取材したときのことを思い出した。そこではやはり、Bスクールと同様の支援施設あけぼのばし自立研修センターを利用したことがある母親が壇上に立ち、こんなことを語っていた。

「羽鳥さんの番組だから、大丈夫だと思った」

フリーアナウンサーの羽鳥慎一さんが司会を務めるテレビ朝日の朝のワイドショーで紹介されていたので、信頼できる業者と思い、高額な費用を支払ってひきこもりの息子の支援を依頼してしまったというのだ。

だが、息子は立ち直るどころか、強引に連れ出されたことへの不信感と、慣れない集団生活へのストレスから、2週間で施設を脱走してきた。

偶然にも、このBSテレ東の番組の放送の二日後、私はB氏に2度目の取材をすることになっていた。