【研究開発】AIによりIPS細胞の培養期間が3分の1に短縮

オペ以外の、人命に直結しないような領域の作業や工程においても、ロボットやAIがより浸透していきます。

それは研究施設で日々行われている培養などです。AIが最適な条件を提示することで、熟練技術者よりも短期間で高品質の細胞が生成されます。
 
実際に取り組みも始まっています。理化学研究所の発表によれば、熟練技術者の経験が必要なIPS細胞の培養において、AIによる最適化で期間が3分の1に短縮されたそうです。

具体的には、人の両腕のようなアームを持つロボットとAIを組み合わせ、人のIPS細胞から目の網膜細胞を作り出す作業を、効率よくロボットが行う試みが行われています。

研究者が帰宅した後も、夜中に淡々とロボットが培養や再生細胞の製造を行う。製造業界の章で触れた、工場や倉庫が不夜城になるのと同様、研究機関もロボットとAIを活用して、24時間365日稼働するようなところが増える日が近いかもしれません。

AI活用でIPS細胞の培養期間が3分の1に短縮される…グーグルが製薬会社に「創薬に強いAI開発」を_5

【診断】スマホドクターが医師に代わり問診を行う

オペのような治療だけではなく、一般的な問診や診断においても、これから先の未来では医師に代わり、生成AIがその役割の一部を担っていくでしょう。
 
これまでもヘルステックベンチャーなどが、スマホで患者の状態を問診するアプリを提供していました。国内ではUbie(ユビー)というスタートアップがあります。カメラを使うことで表情や顔色なども分かる、遠隔診療も進んできました。
 
しかし前者、アプリの場合はいわゆるチャットボットが決められた答え、パターン認識によりやり取りを行っているため、イエス・ノーの機械的な回答でした。これが、生成AIにより、医師とするような自然なやり取りに進化します。
 
扱うデータ量も膨大に増えますから、より幅広い回答ができるようになります。

カメラを使った遠隔治療においても、これまではあくまで医師が介在し、医師主導の下で行われていました。
 
こちらもGPT-4の登場で、画像解析も瞬時に行えるようになりますから、自然言語処理機能と組み合わせることで、より医師に近い、それでいて幅広いデータに基づいた問診や診断が行えるようになります。言うなれば、スマホドクターです。
 
MITコンピューター科学・人工知能研究所のモニカ・アグラワル氏らが取り組んでいる研究によれば、GPTなどのLLMを膨大なデータの分析に利用することで、一定の成果が出たと発表しています。
 
患者の臨床所見が記された書類、つまり自然言語で書かれたデータの中から、どの内容が重要な数値・データであるか、LLMが抽出できるかの取り組みを行いました。アプローチは主に2つです。
 
1つ目は、事前にデータを学習させずに行う、ゼロショットラーニングによるアプローチ。もうひとつは、いくつかのヒントを学習させた上での抽出です。

両アプローチから、ChatGPTのような汎用的なLLMは、数ショットの学習を行うだけで、的確に臨床情報を抽出できた―換言すれば、どちらのアプローチにおいても、従来の自然言語処理(NLP)より結果が良かったと、結論づけています。
 
医師の行うべきことは、AIが判断した診断内容や処置において、判断をくだす。遠隔でなくても構いません。外来で活用すれば病院で何十分、ときには何時間も待つようなことも、少なくなくなるのです。
 
たとえば、前処理―つまり、AIが正しく診断できるように撮影画像の微調整を行う作業は人が担っていました。
 
しかし、その前処理作業もAIが担うようになる。結果、レントゲン技師や医師などの負担が減るでしょう。
 
問診や治療ではなく、その前段階である予防においても、テクノロジーの進化により変化が訪れます。
 
金融業界の章でも少し触れましたが、ウェアラブルデバイスが進化することで、高血圧症や糖尿病、不整脈などを事前に察知し、改善するような未来です。