◆釣りロマン (チビ五歳 ヒメ二歳)
真っ青な空に映える山々の緑。
水面にキラキラと反射する初夏の太陽は、同時に僕の坊主頭をジリジリと焼きつける。
ひろおじちゃん(僕の弟)がチビと僕を釣りに誘ってくれた。
三人乗りの手こぎボートで湖に乗り出した男三人は、それぞれにロッドとルアーを手に取り、キャスティングをくり返す。
静かな水面下に潜む大物を思いながら。
気分は映画『リバー・ランズ・スルー・イット』。
「ねぇ、釣れないじゃん! もう帰ろうよ……」
釣りはじめて三〇分たったかたたないかのうちに、案の定、チビが飽きだした。
まわりのボートを見回しても誰も一匹も釣り上げていないから、ここはチビの言うとおりにさっさと退散するとしよう。
というのも、僕とひろおじちゃんは別プランを用意していたから。
それは、釣り堀!
最初はパパがお手本を見せる。
「こうやって、お魚がいるところに糸を垂らして」
「…………」
「お魚が糸を引っ張ったら竿を真上に上げる! ほらっ!」
「パパってスゲーだろ!」
パパはいつもヒーローじゃなきゃいけないって知ってるひろおじちゃんが僕をもち上げる。
「次はチビが自分でやってみな」
不安な表情で釣り竿を受け取るチビ。
しかし、そこは釣り堀。
糸を垂らした瞬間ヒット!
「ほら、チビいまだ! 上げろ〜!」
「おっ、おっ……、おぉ〜〜〜〜」
「やった〜〜〜!」
「チビ、一人で釣れたじゃん! スゲーじゃん!」
「やった〜〜〜! オレ、一人で釣れた〜〜〜」
さっきまでの不安な表情はどこ吹く風。
「もっと、釣ってみる!」
と、得意げに数匹を釣り上げて終了。
釣るのは五匹までと決めてあった。
五人分で十分だから。
これまで遊びで釣りをするときはいつもリリースしていたけど、今日は食べるのだ!