生成AIが日本の職場で本格的に活用されるようになっていくのは時間の問題
日本ではこうした失敗事例なども参考に生成AIへのスタンスを検討しながら、徐々にビジネスに導入していく方が賢明かもしれません。
PwCコンサルティング合同会社(本社:東京都千代田区)が2023年春、日本国内の企業・組織に所属する従業員を対象に実施したアンケート調査(有効回答数:1081件)によれば、ChatGPTのような生成AIを知らないとした回答が全体の54パーセントに達する中、逆に認知層の60パーセントが生成AIに「関心がある」と回答しました。
また同じく認知層の47パーセントが、生成AIの自社への影響について「チャンス」と捉えていることも分かりました。逆に「脅威」と捉えている人は9パーセントに止まり、「チャンス」が「脅威」の約5倍に達しました。
以上の結果から見て、米国よりも遅れてはいますが生成AIが日本の職場に本格的に導入され、活用されるようになっていくのは時間の問題と見られます。
その際、使い方次第で両刃の剣となる、この強力なツールをどう使いこなしていけばいいのでしょうか?
ChatGPTが世間で騒がれ、特にビジネス活用への期待が高まってくると「プロンプト・エンジニアリング」というテクニックが注目を集めるようになりました。
プロンプト・エンジニアリングとは何か?
プロンプトとはChatGPTなど生成AIに対して、私達ユーザーが発する質問やリクエストのことです。このプロンプトの出し方、つまりその内容や表現によって生成AIが返してくる回答のクオリティが大幅に違ってくると言われています。
たとえばプロンプトの末尾に「一歩ずつ考えよう(Let's think step by step)」と付け加える。あるいは生成AIに具体的な役割を与える、つまり「貴方は○○分野の専門家です。その立場から××について素人にも分かるように説明してください」などの工夫によって、その回答が見違える程良くなるとされます。
またプロンプトは、より具体的な方が効果的とも言われます。
たとえば単に「ARRとは何ですか」と聞くよりも、「金融分野におけるARR(Annual Recurring Revenue)とは何ですか。また、その具体例を3つ挙げてください」というプロンプトの方が良い答えが得られるということです(因みにARRとは日本語で「年間経常収益」を意味し、具体的にはサブスクリプションなど毎年決まって得られる収益を指しています)。
これらのテクニックが一般にプロンプト・エンジニアリングと呼ばれるものです。
それらはユーチューブなどソーシャル・メディア上で無料でシェアされることもあれば、逆に一種の有料コンテンツとして販売されるケースもあります。
米国の求職・求人SNS「LinkedIn」では最近、(日本の履歴書に該当する)レジュメやカバーレターなどの技能欄に「プロンプト・エンジニアリング」と書き込まれるケースが急増しています。
実際、それによって企業から求職者へのレスポンス回数も増えていると見られています。
極端な例としては、グーグルが出資するスタートアップ企業の求人広告で「サンフランシスコ在住のプロンプトエンジニア兼司書」に33万5000ドル(約4500万円)の年俸が提示されたといいます(「プロンプトエンジニアの需要急増、年俸4500万円の求人も─ChatGPTブームで」、Conrad Quilty-Harper、Bloomberg、2023年3月31日)。
文/小林雅一 写真/shutterstock
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