スヌープのレシピを通じてアメリカ料理やヒップホップの文化を伝えたい
――コロナ禍になったばかりの時は今よりも、パーティをしにくい時代でしたからね。
人に集まってもらって試しに食べてもらったりもできないし、気持ちの落ち込みとの戦いでしたね。この本の翻訳って本当に、気分を上げないとできないんですよ(笑)。気分を上げるのに時間がかかって、翻訳できたのはたったこれだけというのを繰り返して、自己嫌悪にも陥って。
それに、今、これを出しても誰も読んでくれないどころか、パーティ料理の本を出してどういうつもりだって言われたら、おしまいじゃないですか。落ち込む要素が多い中で、気持ちを上げるのがすごく大変でしたね。
――でもいざ出てみたら、今だからこそ、この本がいろんな人の心を救うと思いますよね。
そう言っていただけると嬉しいです。Twitterでも本の反響を見ているんですけど、夜に大きな地震があった日に、「ドキドキして眠れなかったけど、スヌープの料理本を読んだら楽しい気持ちになって落ち着けた」っておっしゃっている方がいたんです。
私が上げた気分が、そのまま誰かに伝わったのかなって思うと、すごく嬉しくて。この本の料理を作らなかったとしても、作ったり食べたりする想像をするだけで気分を上げられたら、それだけでもいいのかなって思いますね。
――今のこの本の受け入れられ方をご覧になっていて、率直にどう思いますか?
とても嬉しいです。ただ、話題性が先に行ってしまっていることを少し心配もしています。ブラックミュージックは怖いとかラフなイメージを持たれることもありますけど、私はもともと対訳の仕事を通じて、ブラックミュージックのもっと深くて濃厚な文化を伝えたいという思いがあったんですね。個人の好き嫌いはあるとしても、この文化があったからこそ、みんなを楽しませるヒップホップやR&Bの曲が生まれたと伝える努力をしてきたんです。
今回の本でも、大味とか脂っこいとか、ちょっとネガティブなイメージも持たれるアメリカ料理の歴史も知ってもらいたかったんですよね。アメリカ料理が発展した背景には、黒人が白人のためにキッチンで料理を作っていた歴史があることや、ママのルーツがその家のホームフードに表れているとか、そういう文化をこの本を通じて伝えたいんです。そういう理由もあって、あとがきでも長めに文化について触れました。
話題が先行すると、その文化の部分が伝わりづらくなると危惧していて。料理も音楽も、あらゆるものが歴史や文化から発展してできあがっているので、どんなものも、文化を理解して尊重した上で評価をしないといけないという思いがあるんです。
度肝を抜くスヌープのレシピを生んだ、ボスのクッキングのルーツとは?
後編(ジャガイモの皮もむけなかったスヌープは“愛情”で料理に目覚めた)へつづく
取材・文/川辺美希 ©スヌープドッグ・KANA/晶文社
『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』
2022年3月1日
3410円(税込)
大型本 200ページ
ISBN:978-4794972903