自衛隊の装備はキルギスやスリランカ以下

米軍ほど潤沢な予算を持っていない国でも、安価ながらも実効的な救急品の整備を行っている。

例えばスリランカでは、高価な包帯状止血剤を整備することはできないので、ガーゼ包帯と脱脂綿で代用している。ガーゼ包帯を銃創の出血している場所に接触するように詰め込み、脱脂綿で容積を稼ぐのである。こうすれば、綿を包帯に加工する費用まで節約しながら救命を実現できる。

銃創の深さは13センチほどにまで至ることがあるため、ガーゼは何度も入れ直さなければならない。長さは、少なくとも4メートルが必要となる。米軍の今世紀初期の個人用救急品には4メートルガーゼ包帯が2個、圧迫止血用包帯が2個入っている。1カ所の銃創には銃弾が入った創と出た創の2つがあるので、この数も当然と言える。

一方で、わずか10センチ四方の止血ガーゼと1個の圧迫止血用包帯しか支給していない陸上自衛隊の個人携行救急品では、1カ所の銃創の止血もできないのである。

止血帯についても世界の最前線で使用されるCATが開発されたのは2005年のことだ。

当時は幅広のゴムによるエスマルヒ止血帯が、歴史があり効果があることも判明していたので、これを使用しやすいように金属製フックを取り付けたものを米軍は支給した。このゴム紐止血帯は1000円程度とCATの半額以下なので、大量に支給できたのだ。

キルギスやスリランカなどはさらに安価に、既存のエスマルヒ止血帯に輪を作って抵抗がかかるように工夫した。

これなら300円程度で実効的な止血帯となる。個人用救急品において最優先すべきは隊員の生命である。予算に乏しい国でも実効的な方法を陸自の個人携行救急品の予算の10分の1以下で実現している。

その一方で陸上自衛隊は戦闘服のベルトを止血帯の代用とする、バックルが破損して全く役に立たない教育を行っていたのだ。スリランカなどの例と比べれば、日本はまともな調査・研究すらしていないと言わざるを得ないだろう。

文/照井資規

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#2『自衛隊の戦場医療認識に欠けている第一線での救命の取り組み。正しい処置ができていれば防ぎ得た死をできるだけ減らそうという世界的潮流に遅れをとるワケ』はこちらから

『「自衛隊医療」現場の真実 - 今のままでは「助けられる命」を救えない -』(ワニ・プラス)
照井資規 
自衛隊員の個人携行救急品のお粗末さ…キルギスやスリランカ以下、1カ所の銃創の止血すらできない隊員の命を脅かすともいえる装備_4
2023/9/1
¥1,980
256ページ
ISBN:978-4847073434
今すぐ手を打たなければ
市民の命も、自衛官自身の命も守れない!!

陸上自衛隊で、普通科・衛生科両職種の研究を続けた筆者だからこそ
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台湾・朝鮮半島有事、国内の凶悪事件、テロ、さらにあいつぐ自然災害。   
内外からの危機が現実になったとき、人々の命を守るのが「緊急事態対処医療」である。
自衛隊は民間とも連携しつつ、常にその最前線に立たなければならない。
地下鉄サリン事件、東日本大震災などの事件・災害現場や、新型コロナウィルスのワクチン接種などで
一般の市民は、彼らの活動をメディアでも目にしているだろう。
「災害時にたよりになる」と市民に評価されることは多くなったものの、自衛隊医療の「実態」は楽観できるものではない。
人員不足、予算不足に加え、複雑過ぎる組織、実態に合わない携行品、
市民の「有事」に対する危機感の薄さ、備えの貧弱さは今すぐ解決すべき課題を冷静に分析し、
あるべき姿を提言する。

【内容紹介】
1章  自衛隊医療の限界を露呈した「コロナワクチン大規模接種」
2章  ないがしろにされる自衛隊員の命
3章  核ミサイルが着弾、その時・・・
4章  日本は「銃撃」「テロ」「災害」に対処できるのか
5章  「市民救護」があなたを救う
6章  日本が世界に貢献するために 
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