現代の戦闘外傷救護が追求するものは「LLE」
事程左様に、他国の状況と比べると、自衛隊の置かれた状況はいかにもお粗末だ。
米軍について言えば、「防ぎえた戦闘死」、つまり受傷直後に適切な対応ができていれば隊員の命が助かったケースのうち、ベトナム戦争ではその33%を緊張性気胸が占めていたが、それから50年後の対テロ戦争時には1%まで減少させている。
「戦闘による防ぎ得た死亡」においては、「四肢からの出血」「胸部に受けた穿通性外傷による緊張性気胸」「気道の損傷または閉塞」が主要原因だった。これらは適切な対応により救命することが可能なため、先進国の軍隊では、将兵各個人が実施する救急処置の技能として教育を徹底している。
2012年以降はさらに胸部外傷、骨盤部の外傷、首と手足の付け根からの出血の止血にまで拡大している。
「四肢からの出血」については、受傷後2分程度で失血死してしまうこともあるので、個人が止血帯を2本以上携行し、装着する訓練を徹底するようになった。しかし、止血帯により血流を制限してしまうと、阻血痛が生じ、それは創傷の痛みよりも痛く感じるほどで、20分と痛みに耐えられない。
そこで、包帯状止血剤や圧迫止血用包帯などによる止血法へ切り替えるための技能が必須となる。止血帯による緊縛止血法以外に出血を制御できないとしても、患肢の長さをできるだけ残せるように止血帯を装着し直す。
このように、現代の戦闘外傷救護が追求するものは「LLE」と目標が定められている。
・L Life「生命を守れ」
・L Limb「手足を残せ」
・E Eyesight「視力を残せ」
つまり、「生命を守ること」は当然ながら、手足や視力を残すことで、その後の「生活の質を少しでも高く維持すること」まで踏み込んでいるのだ。