米軍が「血を流して得た」教訓になぜ学ばないのか

例えば、脚を切断することになった場合、少しでも負傷した脚の長さを残すことができるか否かで、車椅子生活になるか、義足による自立歩行が可能か、帰還後の人生に大きな差が生じてしまう。

これを左右するのは、負傷した直後の救急処置の適否だ。戦場ではMEDICのような医療の専門家による応急処置を受けることは期待できないため、負傷者自らまたは戦闘員相互による救急処置が極めて重要となるからだ。

前述のように、高速弾銃創は肝臓で弾丸直径の40倍、筋肉組織では30倍に達することがある。手足は防弾ベストやヘルメットなどで防護することができない一方、大きな筋肉を動かすための太い血管があり、血流量も多いため、大腿動脈と静脈が完全に離断した場合、3分程度で死亡してしまう。

しかし、即座に止血を行い、それが適切であれば90%、失血死を回避できる。このため、各国とも手足の銃創の救急処置から整備を始めているのだ。

自衛隊員の個人携行救急品のお粗末さ…キルギスやスリランカ以下、1カ所の銃創の止血すらできない隊員の命を脅かすともいえる装備_3
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米軍の救急品は、2004年のイラク、ファルージャの戦いで、三角巾と棒による緊縛止血法では効果がないことが判明したことから、止血帯と顆粒状止血剤、ガーゼ包帯、圧迫止血用包帯のパッケージが米軍将兵に緊急で支給された。

アメリカでは南北戦争以来、「負傷者の運命は最初に包帯を巻く者の手に委ねられる」(ニコラス・セン医師)として語り継がれている。

こうした観点から、米軍はベトナム戦争以来50年かけて戦闘による死亡者を減らす努力をしてきた。

主に効果を発揮したのは「BURP法」を教育したことだ。具体的には「胸部に穿通性外傷を負った場合、清潔なプラスチックフィルムを一方弁になるように貼って傷を塞ぐ」「具合が悪くなった場合、めくって脱気する」ことなどを意識付けた。

これには法改正も物も必要としない。直ちに実行できることだ。「隊員の命を第一とする」施策はこうしたことを言うのではないか。

アメリカはまさに文字どおり、血を流して得た教訓を活かしている。日本は自ら血を流さずして得られる教訓がありながら、学ぼうとしない。